Geckoは、2001年に芸術監督のAmit Lahavによって結成されたフィジカルシアターカンパニーだ。イギリス全土や国際ツアーも行っている有名なカンパニーのようである。
今回の作品『KIN』(家族、親族などの意味)はイギリスのナショナルシアターの委託で作られた作品で、移民をテーマにしている。今回私が観劇したマンチェスターのHOMEシアターでの上演が初演だったようで、課題として出たある一場面の作品分析をするのに、レビューが全くなく、メモと記憶が頼りで大変心もとなかった。
舞台は、大きく分けて、入国を管理しているような役人たちと、青い服を着た人達と、赤い服を着た人たちで構成される。青い服の人達は、劇序盤に迫害され、背中に一本線を書かれる場面があり、四人ほどの仲間全員その一本線が服に書かれていることから、ホロコーストから逃れてきたユダヤ人を表現していることが想像される。赤い服の人達は、劇の途中に、壁を模したセットを超えてやって来た人々でアジアや南米にルーツを持つ人が多い。
赤青どちらの服を着た人も、入国管理局のような所では追い払われて入国することができず、移民として大変な暮らしを余儀なくされている。青の人がもともと住んでいたところに赤の人が押しかけてくることで、争いも起きるのだが、戦争によって最終的には皆ボートでまた新たな地を目指す。オープンエンドで彼らの航海が成功したのかどうかは語られない。
ことばで説明するとあらすじは簡単なのだが、場面場面がダンスで表現され、反復が印象的に用いられる。例えば、舞台は最初入国を管理している役人たちの酒を飲みながらのダンスで始まるのだが、その時はこの人たちが何者かという情報がないのでとても楽しそうに見える。しかし、青や赤の人を無下に扱うのを見た後で同じような場面が繰り返されると、自分の見方が変わったことに気づかされる。また、舞台奥に月か太陽のような円い舞台照明が出てきて踊るというシーンは、抽象的で、移民の様子なのか、新しい生活の希求なのか解釈が広がるのだが、青と赤それぞれで同じ場面が繰り返され、彼らの境遇が同一であることが示されている。また、最後のボートのシーンでは、青赤どちらの服を着た人も、全員がライフジャケットを着けて、同じ振付をする。しかも、入国管理の役人の人達もライフジャケットを着けて登場するので、誰もが移民になりうる、また移民の歴史が繰り返されることを示しているのかもしれないと思った。
印象的なシーンとしては、赤の人チームの一人が入国管理の役人にいじめられて、民族のアイデンティティーを示す帽子を奪われ、西洋風の帽子、ネクタイを着けさせられ、顔に白い粉をつけられるという明らかに人種差別を表しているシーン、また、祖先を表すようなパペットが出てきて、青赤同士の争いを止めようとするという、歴史から学べというようなシーンだ。
またGECKOという団体の特徴として、パフォーマーが様々なルーツを持っており、劇中でも英語以外のスペイン語、中国語などの様々な言語が用いられる。更に最後のシーンでは、それぞれ自身のルーツ、「両親が中国からの移民だけどイギリスで育ちました、今は○○で活動しています。」というようなことが語られ、誰もが移民になりうる、移民としての経験を歴史的に持っている、移民問題は他人事ではないというメッセージが強調されていると思った。
ダンスは躍動感があるし、音楽は美しいし、コメディ的な要素もあるし、盆回りはあるし、問題意識もあって、言葉が必要ないので、どこかの演劇祭に招聘されそうだ。授業で見ていなかったら見逃している可能性が高かったので、教えてもらって本当に良かった。