バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

2022-01-01から1年間の記事一覧

現実と悪夢の混濁-ナショナルシアター『The Ocean at the End of the Lane』

ニール・ゲイマンの小説を原作にした作品。ナショナルシアター制作で、2019年に初演したのち、現在ツアー公演を行っている。私はソルフォードのThe Lowryで14日と16日の二回観劇した。 二幕開場前の舞台 物語は、中年の主人公が父親の葬式で故郷に戻り、昔の…

カオスな議会ロックショー(一部)―ロイヤルエクスチェンジシアター『Betty! A sort of musical』

この劇は全体的に観るととびぬけて面白く優れている訳ではなく、その点は前回同じロイヤルエクスチェンジシアターで観た、『Let the Right One In』の方が良かったのだが、二幕頭の議会場面のあらゆる扮装をして様々な政治家が歌い踊る場面が非常にトンチキ…

障がいとクイアとSMの関係性ー『DAN DAW SHOW』ー

信頼の厚いHOMEシアターでの上演。題名の通り、Dan Dawというオーストラリアでキャリアをスタートさせて現在はイギリスで活動しているアーティストの作品で、彼が手足に麻痺を持つ障がい者であるということと、クイアであるということが作品のテーマに関わっ…

ロングラン70年目ーアガサ・クリスティー『ねずみとり』ー

アガサ・クリスティー作のこの作品は、1952年11月25日に初演されてからコロナで休演を余儀なくされるまで世界最長のロングランを続けていたらしい。私は元々全く知らなかったのだが、幸運に同時期に留学している大学の後輩に教えてもらい、原作の本も貸して…

マンチェスター大学のミュージカルサークルによる『春のめざめ』

原作はフランク・ヴェーデキントの1891年出版の小説で、今回は2006年にブロードウェイで初演されたスティーヴン・セイター脚本、ダンカン・シーク音楽のロックミュージカル版だ。 日本でも劇団四季をはじめとして、プロ・アマチュア団体等の上演がされている…

今週の観劇三種-『NOT F**KIN’ SORRY』『OODLES OF DOODLES』『LION KING』

今週は近所の劇場のしかも一時間公演だからいいかと思って、平日に二つの公演と、週末にミュージカルのライオンキングを観に行った。 『NOT F**KIN’ SORRY』 写真撮影が自由だった 一番家に近いコンタクトシアターでの公演。学生会員&会員割引でチケットは…

青春スペクタクル吸血鬼物―ロイヤルエクスチェンジシアター『Let The Right One In』

原作はスウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説で、2008年にスウェーデンで『Let The Right One In(邦題ぼくのエリ 200歳の少女)』、2010年にアメリカで『モールス』として二度の映画化がされている。母子家庭で、アルコール依存の母…

宇宙空間の桜の園ーVinay Patel翻案『The Cherry Orchard』

マンチェスターHOMEシアターでの上演。二列目のほぼセンターで観劇した。前列も誰も座っていなかったので最前列ではあるが舞台をかなり見上げる形になるので見えにくい部分もあった。二年生向けの近代劇の授業の一貫で無料で観ることができた。無料チケット…

脱炭素演劇ーPigfoot 『Hot in here』ー

Pigfootというイギリスの脱炭素劇団(Carbon-neutral theatre company)の公演で、タイトルからも分かる通り気候変動を扱う作品だ。演出はHetty Hodgson (she/her) と Bea Udale-Smith (she/her)。 www.pigfoottheatre.com 気候変動を直接的に扱う劇は、シビ…

完成度の高いヒップホップパフォーマンスーBoy Blue”Black Whyte Gray”(おまけにジャージーボーイズ)

授業でオススメされたこともあって、観劇した。歩いて20分くらいのHOMEシアターでチケット代は、2000円くらい。 Kenrick Sandy と音楽プロデューサーのMichael Asante によって2002年に設立されたヒップホップダンスカンパニーBoy Blueによる公演だ。全然知…

ブラックミュージカルの間演劇性-『The color purple』-

ピューリッツァー賞を受賞したアリス・ウォーカーの1982年の小説を基にしたミュージカルで、1985年にはスピルバーグが映画化している。 劇場前のポスター写真 劇場はThe Lowryという大学からバスで30分くらいのところで、割引チケットで三列目を実際の値段の…

ダンスフロアドラマツルギー-OUTBOX『GROOVE』

OUTBOX『GROOVE』@CONTACT THEATRE(寮から徒歩三分くらい) Ben Burattaという演出家の元、2010年に結成された劇団で、“Outbox create spaces where queer people can dream and imagine”というキャッチコピーにもあるように、LGBTQの人々の出演する、彼らが…

移民をテーマにしたダンス作品 -Gecko『Kin』-

Geckoは、2001年に芸術監督のAmit Lahavによって結成されたフィジカルシアターカンパニーだ。イギリス全土や国際ツアーも行っている有名なカンパニーのようである。 今回の作品『KIN』(家族、親族などの意味)はイギリスのナショナルシアターの委託で作られ…

身体とジェンダーに関わるテーマ①SO LA FLAIR『HOW TO KEEP UP WITH THE KARDASHIANS』

観た作品が溜まっていくばっかりで全然ブログを更新する時間が無い今日この頃、日本に来ている「スカーレット・プリンセス」チームのインスタグラム投稿を見ては、なぜ私は今日本にいないのかという気持ちになっています。日本は何故秋にばっかり劇を上演す…

これはフェミニズムだったんだ‼パレスシアター『ドリームガールズ』

大学から歩いて行けるマンチェスターパレスシアターには、ブロードウェイやウェストエンドでも上演のある大型ミュージカルのツアー公演がやって来る。今公演しているのが、来年日本でも日本版で初上演される『ドリームガールズ』だ。 パレスシアターの外観、…

Atri Banerjee演出・ロイヤルエクスチェンジシアター『ガラスの動物園』

マンチェスターに交換留学にやって来て絶賛言語の壁にぶつかっていますが、演劇のおかげでギリギリ元気にやってます。日本では全然書かないのに海外行った時だけブログ書くやないかと思われそうですが、ただの備忘録・感想でもあまり日本語で記録が残ってい…

10年に一度の受難劇inオーバーアマガウ 'Passion Play' 感想

7/7、七夕の日にオーバーアマガウの受難劇を観てきた。 例によって無事ここまでたどり着くのに必死であまり予習できておらず、今までの知識の蓄積とコロナ禍にオンラインで観たジーザス・クライスト・スーパースター、ヨセフの不思議なテクニカラー・ドリー…

バイエルン歌劇場 ベルリオーズ「トロイアの人々」感想

2022年7月6日、シビウからミュンヘンに降り立った私は早速バイエルン歌劇場でオペラを鑑賞した。演目は「トロイアの人々」で、Christophe Honoré演出、ウェルギリウスの「アエネーイス」を基にした作品だそうだ。チケットはU-30の割引で二列目なのに10ユーロ…

シビウ演劇祭九日目・十日目

また新しい担当カンパニー、ブカレストのTeatru Masucaが来て、その劇団に付きっきりだった。なのでその他は目玉の「ファウスト」を除き、日本にも来たイタリアのマクベス等評判がいいものも観ることができなかったが、その分、野外としてはしっかり舞台を作…

シビウ演劇祭~スカーレット・プリンセス~

会場前に貼られたチラシ、ここで入場まで待機 2020年に日本来日が予定されていたものが延期され、ついに今年10月から東京芸術劇場で招聘公演が行われることが決まっている、シルヴィウ・プルカレーテ作・演出の「スカーレット・プリンセス」。シビウ国際演劇…

シビウ演劇祭七日目・八日目

新しいカンパニーTeatru Mascaというブカレストの劇団を迎える準備や実際にお出迎えがあったが、アウトドアでしかも現地のカンパニーなのでとりあえずやることは少なく、夜は公演を見ることができた。一日に何作品もはしごできる天国のような時間なので、終…

シビウ演劇祭五日目・六日目

五日目は担当している公演が終わり、ラドゥスタンカ劇場の看板女優オフィリア・ポピーの出演する「三人姉妹」を観るかどうするか散々迷った結果、宣伝の写真が面白そうだったダンス作品を観に行くことに決めた。 ベルギーCompagnie Mossoux-Bonté ‘Les Arriè…

シビウ演劇祭四日目・五日目~ASYLUM~

担当している、Kibbutz Dance Companyというイスラエルのダンスカンパニーの公演「ASYLUM」。去年、オンラインの配信でこのカンパニーとバットシェバというイスラエルの他のダンスカンパニーを観て、その表現に惹かれていたので担当できているのは嬉しい。 6…

シビウ演劇祭二日目・三日目

忙しい、というかあまりなにもやってないけど公演は見れないような時間もありつつで、Indoorのパフォーマンスは全然見れていない。 担当する劇団の公演はかなり深く入り込んでみれているし、仕込みとかを観るのはすごく面白いのでそれはそれで充実しているは…

シビウ演劇祭一日目観劇録

①フランスCompagnie DyptikのD-Construction(脱構築?) in Habermann Market フェンスが舞台の中心に立っていて、演目の半ばでフェンスの内と外が入れ替わる形式、最初はフェンスの外側がメインステージのようになっていたので、逆側がメインなんだなくらい…

ふじのくにせかい演劇祭雑感 ストレンジシード静岡編

ふじのくに世界演劇祭は知っていたが、初めて現地に足を運んだ。5/2-5/3 と滞在し、ストレンジシード静岡という主に野外で短い演劇やダンス作品を上演するという企画でいくつかの劇団の上演を観たので簡単に記録と感想を残しておきたいと思う。SPAC の「ギル…

めぐり合いは再びnext generation/Gran Cantante!!初日感想(ネタばれあり)

4月23日(土)に開幕した「ミュージカル・エトワール めぐり会いは再びnext generation 真夜中の依頼人」「レビュー・エスパーニャ Gran Cantante!!」を早速観てきた。普段は天飛華音(パネル入りおめでとう)をオペラグラスでずっと追ってしまうのだが、少…

冬霞の巴里感想(ネタばれあり)~ギリシャ劇の翻案という視点から~

チケットは取れなかったが、4月2日(土)16:00~配信を見ることができた。 『冬霞の巴里』は古代ギリシャ劇、アイスキュロス作「オレステイア」を原案にしており、現代での古代ギリシャ劇上演という私の研究テーマに通ずる。(http://hdl.handle.net/11094/806…