バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

めぐり合いは再びnext generation/Gran Cantante!!初日感想(ネタばれあり)

 4月23日(土)に開幕した「ミュージカル・エトワール めぐり会いは再びnext generation 真夜中の依頼人」「レビュー・エスパーニャ Gran Cantante!!」を早速観てきた。普段は天飛華音(パネル入りおめでとう)をオペラグラスでずっと追ってしまうのだが、少し我慢し、俯瞰的に観るように努めたので、鮮度重視・備忘録として感想をまとめたいと思う。 

めぐり合いは再びnext generation

 まず、今作は2011年の「めぐり会いは再び」(以後1stと表記)、2012年の「めぐり会いは再び2nd」(以後2ndと表記)の続編である。どちらも元々好きだった柚希礼音(様)の主演作ということもあり映像で何度か観劇済みだ。その上演から10年が経過したということで、宝塚や星組から去った人も多くどのような話にするのか…初心者が見ても楽しめるものなのか…正直非常にハラハラしていた。

 

 結論は、「楽しい」「最高」というポジティブなものなのだが、ただそれは私が特に星組ファンで、挿入されているネタが大体わかるからということがあるかもしれない…。以下にネタの一部を挙げる。

・エルモクラート(真風涼帆)・ケテル(芹香斗亜)が他の国に行っている

・コソ泥の天飛の「パン泥棒だなんて情けねえ」の台詞(2ndでかぼちゃを盗んでいた十輝いりすクラウスより)

カストルポルックスの双子が「父親に似て落ち着きがない」と言われる(親のブルギニョンは紅ゆずる…)

・レオニード(音波みのり)の脈絡のあまり無い男装、マリオ(涼紫央)との結婚

・「食聖」風のカンフーしてる瞬間があったような

…等々気づいてない部分でも、まだまだありそうだ。

 

 宝塚のネタではなくても、小柳先生が好きだと公言しているインド映画の影響を感じさせる場面もあった。私は人並み程度にしかインド映画は見れていないので、有識者が見たらより発見があるのではないだろうか。

アンジェリークとルーチェをくっつける作戦会議中のひろ香祐「きっとうまくいく」(インド映画「3idiots」の邦訳より?)

・婿選び審査中のクラブでの突然のダンス審査

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・婿選びでのオンブル伯の策略を明らかにする場面、劇作家(天華えま)による劇仕立てで、半仮面をつけている(「オーム・シャンティ・オーム」のオペラ座の怪人風の場面)

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 元々「めぐり会いは再び」自体が劇中劇のような構造を取っているものの、演出した経験もある今作から引用していることは間違いないように思われる。

 

 また、小柳先生はファンが求めている需要に的確に答えるのである。序盤から、友人同士のことせお(礼真琴・瀬央ゆりあ)で一緒にブランケットに入ってみたり、せおみほ(瀬央ゆりあ・有沙ひとみ)はカップルだったり、何故か瀬央さんと天寿さんはキスをし…もう一杯一杯で受け止められないくらいの出血大サービスだ。退団者三人に向けての場面も豊富にあり、トップスター二人とともに音羽、天寿が歌う場面は泣いてしまった。

 

 劇の全体を見ていくと、①恋人、②家族、③モラトリアム・成長の三つの王道の話が混ざり合って進行していくようである。

①恋人

このテーマは言わずもがな、ルーチェとアンジェリークの恋路である。彼らの関係が回復し、結ばれることが作品の大きな軸になっている。

②家族

 ルーチェ(礼真琴)もアンジェリーク(舞空瞳)も母親を早くに亡くしており、母親が不在である。

 ルーチェは亡くなった母親の手を取れなかったことをずっと後悔しており、自信を失う要因の一つとなっている。アンジェリークも、危険が及ぶことを恐れた父親によって、身分を隠し、親戚とともに暮らしている。これらの家族の問題を解決することも主題の一つだ。

③モラトリアム・成長

 「モラトリアム」という言葉が歌詞にも何度か出てくるように、探偵所の手伝い(?)をしてまともに就職していないルーチェ、そしてそれぞれ夢を持っていながらも未だ大成していない友人たち(瀬央・有沙・天華・水乃)はモラトリアムを謳歌している存在として描かれる。そんな彼らの成長物語でもある。

 

 更に、ジェンダーの観点から見ていくと、アンジェリークが庇護心の強い父親から自立することや、剣を持って戦うヒロインであることも印象的だ。前作の夢咲ねね演じるシルヴィアよりもより強い、従来の守られる、受け身のお姫様ではないことが明確に示される。

 

 とはいえ情報量が多すぎる面は否めない。前作までの背景があるためにどうしても説明台詞は多いし、視覚的にも前作のおとぎ話風のメルヘン衣装と、今作のモチーフであるスチームパンクが混ざり合ってゴチャゴチャしていた。音楽もゲーム音楽のような、昔のボカロ曲のようなものが増えているが、正直前作までの曲のリプライズの方が好みである。

 結末は大怪盗ダアトの伏線・正体も解明されず、次回につづくというオープンエンドであった。果たして実際に上演されるのか、オタクの想像にお任せしますということなのか、結果が分かるにはまた10年必要なのかもしれない。

 

Gran Cantante!!

 「素晴らしい歌い手」というタイトルにもあるように、礼真琴、美穂圭子の歌声を存分に味わえるものとなっており、幕開きは「アパショナード??」という印象は、その歌重視のスパニッシュという点で変化した。

 娘役の活躍する場面も多く、万里柚美元組長も登場する(ロミジュリで身につけたフラメンコを披露してほしかったが…)。退団者への餞別の場面も多い。中でも、トップスターの礼が今まで全国ツアー等でも組んで来た音羽みのりと踊るを見れたのは嬉しかった。

 この作品で、応援している天飛華音がスパニッシュドレスを着て、所謂藤井ショーの「女装」をしていた。「エル・アルコン」でも娘役(?)はやっていたが、最初は面食らった。茶化したりするような場面ではないので、問題はなく、当人はキレキレの踊りに表情もバシバシ決めていた。結局ファンなのでショートで美しい…デコルテのライン好き…とみてしまうのだが、お馴染み感が過ぎる面もあるのではないか。これは開演後すぐに三人案内役のようなキャラクターが出てくることにも言える。

 天飛華音の衣装話の続きだが、その前の馬のシーンも、衣装は悪くないが、好色な馬といわれるとギリシャ神話の「サテュロス」を想起してしまってかっこよく思えないし、その後の牛の場面での衣装も中性的なものだったので、中詰周辺はカッコいい天飛少なくないですか…?状態だった。

 音楽に関しては、前大劇場作品のクール・ビーストではJPOPを頻繁に用いていたが、今回は宝塚のスペイン物の曲を引用が多く、J-POPの使用は抑えられていた。J-POPもよいが、やはり宝塚なのでショー・レビューとして溶け込み調和するのは宝塚の歌だろう。

 それにしても、最近スペイン物が多いような気がする、「Éclair Brillant」のボレロスペインシーン、(え、最近じゃない??)、ロミジュリのフィナーレ、マノン、花組の哀しみのコルドバ宙組のネバセイ‥‥。前作の記憶がよぎるので、比較しても面白いのではないかと思われる。簡素な舞台美術や、音楽の引用、衣装の使い回し等も…注目点は多いのだが、これを記述するのは今後の課題にしたい。

 

 場面場面の全体でも星組生熱演相まって情熱的で、それでいて落ち着いた雰囲気もある。非常に安定感があり、礼さんはじめ歌と踊りとを堪能できるレビューだが、フィナーレでは天寿さんエトワール→天飛階段降り→え、瀬央さん片羽根??→あれ、なこちゃんも片羽根??どういうぼかし方??と感情がジェットコースターのようになった。人事のモヤモヤを抱えることなく作品を見せてくれよと歌劇事業部には頼みたいところだ。