バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

シビウ演劇祭~スカーレット・プリンセス~

 2020年に日本来日が予定されていたものが延期され、ついに今年10月から東京芸術劇場で招聘公演が行われることが決まっている、シルヴィウ・プルカレーテ作・演出の「スカーレット・プリンセス」。シビウ国際演劇祭でも二日間22時から二時間半というスケジュールで上演された。

 他のどの公演でもそうなのだが、ボランティアスタッフはチケットを持った客が入って開演時間になった後空いている席に自由に座れるというルールで、現実で先着順チケット取りをしているみたいで、非常に楽しい。二回観に行ったが、一回目は二列目センター、二回目も花道より三列目を実力で確保することができた。プルカレーテの作品は、オンラインや映像で「テンペスト」「リチャード三世」「メタモルフォーゼ」「スカーレット・プリンセス」等を見て、生では野田版「夏の夜の夢」を観ていたが、それも遠い末席だった。今回非常に近い席で観て、やっぱり生で近くで観た方がスペクタクルで楽しめるなと痛感した。

 

 下調べをしていないし、歌舞伎の方の知識もこの前の歌舞伎座の公演を前編は歌舞伎座で、後編はオンラインとシネマで観に行っただけの感想なのでご容赦願いたい。また、鶴屋南北原作の歌舞伎の話ではあるし、比較してみるとより楽しいのだが、一方でどちらがいい悪いではなく、別のものだと割り切って楽しむものでもあると思う。

 

まずは全体として、キッチュでエロでグロでポップでめちゃくちゃっていう鶴屋南北とプルカレーテの作風がぴったりマッチングしているというのはほとんどすべての人が認める所だと思う。歌舞伎の方の原作が大体踏襲されているのだが、所々変更されているか、強調する力点が変化していて面白かった。

 

第一に、主演の桜姫・清玄・権助以外のアンサンブルがかなり存在感を増している気がする。もちろん、日本の公演では仁左衛門さんを追っかけすぎていて見ていなかっただけという可能性も考えられるが、特に吉田家の重宝都鳥の一巻が盗まれたことを巡る部分がより分かりやすく丁寧に場面を割いて描かれていたように感じた。入間悪五郎という桜姫の許嫁の悪者役は、歌舞伎で観た時にはあまり印象に残っていなかったのだが、かなり重要なキャラクターとして出てきていたのが新鮮だった。更に、剃髪して法衣のようなものを着ている女性が出てきたり、西洋のサーカス風衣装や甲冑を身につけた大きい人が舞台に存在してきて、たまに劇に介入してきたりするのだが、どういう存在であるかはよく分からなかった。多分よくわからないままでもいいんだと思う。

 

第二に、最後清玄が恐ろしい霊として出てきたり、それが権助と重なる場面はあまりなく、寧ろ清玄と白菊丸の因縁が舞台セットも使って強調されていた。幽霊という考え方がどの国でも親しみやすいわけではないという配慮だろうか。

 

 

第三に、桜姫が最後、権助か憎き仇であることに気づいて、子殺し、人殺しをするのだが、その行為がナレーターによってmurderをしたと繰り返されていて、よりそれが罪であるということが強調されているように感じた。最後のシーンも役割としては同じようなものではあるのだが、お家再興ではなく、ミュージカルシーンで終わるので、この先の桜姫の行く末はよりオープンエンドで想像を掻き立てるような感じだった。

 

 演者に着目すると、それぞれ皆とても役に合っていて、特に主演二人、オフェリア・ポピーの権助は、悪人であるにも関わらずチャーミングでポップでコミカルでキュートで、でもやっぱり悪いという新しい色悪の魅力を感じた。桜姫役のIustian turcuは普段の姿もキレイで目がぱっちりしてて、フレンドリーで、驚くべき程にただのファンなのだが、作中では権助に対する欲情が激しくて、めちゃくちゃなお姫様というのを体現していた。お姫様が女郎言葉を身につけて帰ってくる終盤の見所では、火を探しているところで見た目は全く異なっているのに、不思議と玉三郎さんが火がねぇなあと言っているシーンがフラッシュバックした。

 残月と長浦の二人の絡みもやはり面白くて、最高だった。男女が反転して演じられるのだがそのバランスも非常に良かった。葛飾のお十も洋装をしているのだが、動きがコミカルで、トテトテというような効果音を歩くのにつけられていてキュートだと感じた。

 

 拷問道具を持った怖い黒子や、もふもふの毛皮、銃を使って殺す等々細かいポイントはたくさんあるがとりあえずここら辺で終わっておきたい。

 

一日目より二日目の方が客の反応はよかった様に思うが、客の反応で言えば、休憩を挟んだ二幕目がより複雑になるからか、どこか失速する雰囲気があるかもしれない。

逆に私が日本にいないという悲しみで、せっかくはるばる来てくれるのに、私は見れないのだが、日本で上演したらポピーとユスティの魅力にみんな悩殺されるんじゃないかな…