バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

Atri Banerjee演出・ロイヤルエクスチェンジシアター『ガラスの動物園』

 マンチェスターに交換留学にやって来て絶賛言語の壁にぶつかっていますが、演劇のおかげでギリギリ元気にやってます。日本では全然書かないのに海外行った時だけブログ書くやないかと思われそうですが、ただの備忘録・感想でもあまり日本語で記録が残っていない公演だと面白いかなという一心なのでゆるしてください‼

https://www.royalexchange.co.uk/whats-on-and-tickets/the-glass-menagerie-2022(公式サイト)

https://www.theguardian.com/stage/2022/sep/08/the-glass-menagerie-review-royal-exchange-manchester(ガーディアン紙の劇評)

https://www.whatsonstage.com/manchester-theatre/reviews/the-glass-menagerie-at-royal-exchange_57320.html(WhatsOnStageの劇評)

 

 日本でも新国立劇場での招聘公演が決まっているテネシー・ウィリアムズ作の『ガラスの動物園』。昨年も上村聡史演出、岡田将生主演で行われた上演を観ていたので比較する部分も多かったが、上村版が原作の時代感に沿ってリアリズム的に作ったとすれば、新進の演出家Atri Banerjee版は現代により近づけていて、ほとんどセットが無い抽象的な舞台だった。

 ロイヤルエクスチェンジシアターの円形の舞台の中央にはアパートの外にあるクラブの“PARADISE”の文字がセットとして置かれており、冒頭にトムがライターで火をつける動作をすると反時計回りに回り始める。その後は、トムと母アマンダの口論のシーンになると回転が速くなったり、日が暮れたら白から暖色になったり、停電したら消えてしまったりと作品に呼応しながら回転し続ける。この大きなネオンサイン以外には、舞台と観客席を分けるように等間隔においてあるスピーカーと四脚の椅子以外はほとんどセットが無く役者も時計回りか反時計回りかで動きながら演技をする感じだった。

PARADISEのネオン

 印象的だったのは、ローラ役のRhiannon Clements、ビリー・アイリッシュのような格好をした現代の若者というような雰囲気で、一幕ではかなり母親に強気に言い返しているように見えた。原作では足を悪くしているという設定だったが、そのような演技は無いので不思議に思っていたところ、二幕で袖の短い服を着た時にはじめて彼女が左腕を欠損していることに気づいた。結構強気な印象だったのが段々段々弱さを見せていくような感じで、一幕の最初の雰囲気からすると、ジムに恋しているのが奇妙に思えるような感じでもあった。

 また、一幕でトムがローラに与えるスカーフがレインボーで、抽象的なほぼ色のない舞台ではこのレインボーが強烈に印象を残した。2019年の文学座の公演でもスカーフがレインボーだったというのを北村先生のブログ(https://saebou.hatenablog.com/entry/2019/06/29/171430)で読んでいたので、トムもしくはローラがLGBTQであるという解釈が広くなされているのだろうかと思った。今回の劇では、ローラがその後レインボーのスカーフを着けているので、彼女が異性愛規範に収まらない女性だということにトムが気付いていることの示唆かと思ったが、脚本には手を加えられていないので、劇はそのまま彼女がジムへ片思いしていたという話につづいていく。しかし、もしそうだとしたら、母親の結婚しろという圧力はよりつらいだろうなと感じた。

 

 その他の配役は、アマンダ役がハリーポッターシリーズでハリーの母親のリリー役をしたGeraldine Somerville、ローラ役が、トム役がJoshua James、ジム役がEloka Ivo。やはりアマンダはかなり強烈で、客席は笑いもかなり起きていた。

 上演前に女王への一分間の黙祷あった。3割くらいの観客は立っていなかった。