バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

これはフェミニズムだったんだ‼パレスシアター『ドリームガールズ』

 大学から歩いて行けるマンチェスターパレスシアターには、ブロードウェイやウェストエンドでも上演のある大型ミュージカルのツアー公演がやって来る。今公演しているのが、来年日本でも日本版で初上演される『ドリームガールズ』だ。

パレスシアターの外観、一見ライオンキングをやってるのかと思ってしまう

 

 梅田芸術劇場で多分『メリー・ポピンズ』を観た時に、『ドリームガールズ』が上演されるという特報チラシを貰ったときも、今パレスシアターで上演されているのが『ドリームガールズ』だと知った時も少し古い作品すぎないかという考えが頭をよぎっていた。というのもミュージカルの初演が1981年で有名な映画化も2006年である。

 

 しかし、作品、特にミュージカル版を見るとテーマは全然古くないことに気づいた。観客の歓声と演出のおかげで、めちゃくちゃフェミニズムであることに気づいたからだ‼。

 

 『ドリームガールズ』全体のあらすじは省くが、とにかくソウルフルなボイスを持つエフィが元々プロデューサーのカーティスと恋愛関係にあり、グループでもセンターを務めていたのにも関わらず、カーティスが大衆の人気を獲得するために容貌のいいディーナをセンターに変更する。エフィはその変更が気に入らないことや体調不良(実は妊娠)によって悪い態度を取ったことでグループから追い出される。エフィの脱退後、彼女たちはスター街道を更に上り詰め、カーティスは特に注目を集めるセンターディーナと付き合い始める。

 

 このカーティスが悪い男で、エフィを捨てるし、ディーナは商品としか見てないし、悪事にも手を染めまくりなのだが、こちらの客席では、カーティスが彼女らに酷い態度を取るたびにエエとかハ?とか日本ではほとんどの観客が心の中に留めておくであろう感情が外に出る人が多い。そのような声で観客が一体となり、最終的にエフィがカーティスに言い返すところやディーナがカーティスに別れを告げる所では、激しい歓声とともに「Yes!!!」「よくやった!」というような野次が飛び交い、左前方の客はガッツポーズをして、カーティスにはブーイングを飛ばし、その場面は彼が絶対悪の勧善懲悪物を見ているようであった。

 

 また、映画版を予習で見ていたのだが、映画では短い会話のシーンだけで終わってしまうエフィとディーナの仲直りの場面にミュージカルではナンバーがあり、二人のデュエットが繰り広げられる。舞台上も観客のボルテージも最高潮で二人の絆というのがより強調されていた。その後の解散コンサートで歌われる主題歌のDreamgirlsは、映画でもミュージカルでも大きく盛り上がる感じはなくパッとしないし、エフィの登場も特に演出されずただ下手から出てくるだけだったので、仲直りのシーンがクライマックスで解散コンサートはエピローグという感じだった。

 

 まだまだセンサーの鈍い私は、これらの演出や客たちの反応によって、「あ、これは女達が自立し、友情関係を回復する話だったんだ」と気づいたのだった。

 

 ミュージカルとしては、ナンバーとナンバーのつなぎ方がかっこよくて、ダンスがアクロバティックだった。作品としてはどう考えてもエフィが主役という扱いで、エフィを演じるNicole Raquel Dennisの声がソウルフルだった。特に一幕終わりの“And I Am Telling You I'm Not Going”と再起をかけた“One Night Only”は圧巻だった。

 

 不思議なのは、あんなに盛り上がっておいて、カーテンコールはスタンディングオベーションをしないどころか拍手もせずにみんな結構帰ってしまうということ。それまでにも途中退席する客は結構いたのだが、直前まであんなにガッツポーズをして、感情移入して観ていたお客さんたちまでもがするするといなくなってしまうのがカルチャーショックだった。

 

https://www.manchester-theatre.co.uk/theatres/manchester-palace-theatre/dreamgirls.php(公演情報)