バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

ダンスフロアドラマツルギー-OUTBOX『GROOVE』

OUTBOX『GROOVE』@CONTACT THEATRE(寮から徒歩三分くらい)

 Ben Burattaという演出家の元、2010年に結成された劇団で、“Outbox create spaces where queer people can dream and imagine”というキャッチコピーにもあるように、LGBTQの人々の出演する、彼らがテーマの作品を創っている劇団だ。

 今回の『GROOVE』は、クラブがテーマになっており、若者から老人のクイアな人々がクラブに集まるという枠組みで踊ったり、歌ったり、と明確な筋の無いシーンが続いていく。どのように理解すればいいか、ブログにまとめればいいか非常に難しい作品なのだが、彼自身がHIV/AIDSについて扱った前作『Affection』に関わる論文*1で、自身の作品を以下の三つのドラマツルギーを用いて説明していた。

「ダンスフロアドラマツルギー」:①クイアなダンスが行われる空間、②政治的社会的な空間、③劇創作のプロセスに通じるような劇的な空間(p.58)

「クイアドラマツルギー」:キャラクター、時間、場所などを固定せず、規範とされる表現に反対する。異なる創作プロセスで制作される等々

「バイラル(拡散的な)ドラマツルギー」:ダンスフロアで上演することで、普段演劇に触れない層にも広める(p.59)

(日本語翻訳はテキトーです、信用しすぎないでください…)

 

 これらの理論に基づいて、前作はダンスフロア、つまりクラブで上演していたものが、今回は作品のテーマ自体がダンスフロア、クラブになっていた。筋が無いシーンの連続での構成は、「クイアドラマツルギー」に基づいており、私たちも西洋演劇の伝統のような、従来通りの基準で評価するべきではないのだろうと思う。

配役:

Fraser Buchanan (he/they), ダンサー

Lavinia Co-op (he/she/they), ドラァグパフォーマー

A de Castro (they/he), クラウンなどのパフォーマー

Sky Frances (they/them), RADAの卒業生、プロデビュー作品

Jacob Seelochan (all pronouns),ダンサー

Kim Tatum (she/her)黒人トランス女性、女優、活動家

 

 舞台の話に移っていくと、舞台上は上下に階段のような、座ることもできるセットがつけられ、また、舞台中央から出ることができるようになっている以外は特に何も置かれていない。舞台奥の壁は映像を映せるようになっている。舞台下の右手からスーツを着た年老いたおじいちゃんという印象を受ける人(Lavinia Co-Op)が出てきて何かを探すようにしながら舞台上に上がっていくと、グルーブ感のある音楽が始まって、出演者が集まって来る。それ以降はずっと舞台はクラブで、Kim Tatumがクラブの主人のような感じで歌い上げたり、ローラースケートで滑走したり、Sky Francesが自由になることができるクラブへの愛着に関わる独白をしたりする。私たちを勇気づけるような明るいシーンが多い。

 印象的なシーンがいくつかある。まずは、ブロンドでピンクの可愛い服を着て、長髪という女性的な記号を纏っているJacob Seelochan、Fraser Buchananの二人が男らしさを見せるような、上腕二頭筋を隆起させるような振付をしながら、衣装を脱いでいって男性的な身体を見せるシーン。また、Lavinia Co-Opが登場から来ていたスーツを脱いだら青いワンピースになって、舞台上でドラァグのメイクアップをするシーンだ。こういう性別の記号を脱ぎ着して変身していくような、曖昧にするようなシーンは刺激的だった。また、A de Castroが観客をみて、こちらに「レズビアンレズビアントランスジェンダー…、あとへテロも」というような台詞を言う所はクイア版の綾小路きみまろかなと思った。

 ダンスは舞台上だけでなく、頻繁に客席で観客の周りで、観客を巻き込みながら行われる。やはり元々はこの作品も劇場ではなくて、クラブのような境界の無いより狭い空間で上演することが意図されていたのではないだろうか。授業ではこのようなダンスフロアでのダンスは即興的なもので、相手がいなくてもできるからヘテロセクシュアルの構造の外にあるものだと言っていた。私は本当にヨーロッパで過ごす中でクラブ的な空間が苦手だったのだが、この作品を見て良い部分をたくさん知ることができた。だからと言って行くことは無いと思うが…。

 

追記:

この作品かGECKOの『KIN』で英文2000文字以内のレポートを書くことになった。本当に先に言っておいてほしいという感じだ(記憶が曖昧なので)。いくつかの場面を抜き出して論じることになるので、Lavinia Co-Opに着目しようかと思うが、老いとドラァグについて考えると大野一雄とかとも結びついてくるなと思った。

 

劇場、メンバーシップに加入したので半額でチケットが買える(元を取れるかは怪しい)

 

*1:Buratta, Ben (2020) Dance-Floor Dramaturgy: Unlearning the Shame and Stigma of HIV Through Theatre. Theatre Topics, 30 (02). pp. 57-68.