バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

脱炭素演劇ーPigfoot 『Hot in here』ー

Pigfootというイギリスの脱炭素劇団(Carbon-neutral theatre company)の公演で、タイトルからも分かる通り気候変動を扱う作品だ。演出はHetty Hodgson (she/her) と Bea Udale-Smith (she/her)。

www.pigfoottheatre.com

 

気候変動を直接的に扱う劇は、シビウで観たFocus and Chaliwaté Companyの“Sunday”がコミカルでそれでいてテーマもしっかり表現していて面白かったのだが、今回の作品も例にもれず面白かった。教育的な目的の演劇として突き詰めていくと、子供を含めた多くの人に理解されるために少しポップなテイストになっていくのかもしれない。

 

この劇団は脱炭素を標榜しているので、もちろん当日パンフレットやチラシの類は配られないし、舞台のセットも段ボールだったり、木だったりでできている。舞台の下手奥にある円い装置には映像が投影され、その前方に東京フレンドパークの足で光を止めるやつ(フラッシュザウルスというらしい)みたいな装置があり、演者がこの上で飛ぶとその下に巻き付けてあるネオンのライトが光るという仕掛けになっていた。

開演前の様子



また、話の筋とは絡んでこないのだが舞台の下手側に手話通訳の人がおり、その人の手話がかなり雄弁で感情表現が豊かだったのでたまに目を奪われた。

 

話は大きく分けて導入部と、女性三人のそれぞれの生活が描かれる本筋、間に挟まれる各国の若者へのインタビューで構成されている。

導入部は、ペルーの神話、文明社会を表すワシと自然との共生社会を表すコンドルが一緒に飛ぶべきだという事が紹介される。この話は日本語調べた時も環境系のブログがヒットしたので、良く引用されている話なのかもしれない。そして、あまり知られていない初期の三人の環境活動家、Eunice Newton Foote, Benny Rothman, Hazel M Johnsonが紹介される。

続いて、舞台は2022年のイギリスに移る、三人の女性キャラクター、Alice, Stelle, Zeldaのそれぞれの生活が描かれ、俳優はそれぞれ自分がメインではないシーンでは脇役を演じている。AK Golding (they/she)演じるAliceはリサイクルセンターで働く一児の母で、仕事中に光るペットボトルを拾って、テレビのインタビューを受けるという妄想(?)を繰り広げる。Elizabeth Ayodele (she/her)演じるStelleはインフルエンサーでよくインスタ投稿やユーチューブ動画の投稿をしている。Keziah Joseph (she/they)演じるZeldaは映画製作者で、妊娠しており、おなかの赤ちゃんに話しかける。大きな筋としては、彼らが例えば熱波で飛行機が飛ばないであったり、実際に経験したであろう異常な暑さであったり、ハリケーンだったりを経験するというのが描かれる。Aliceの妄想のシーンであったり、Stelleが飛行機の問題の時にすぐにSNSに投稿するというのはとても面白く描かれているが、同時に最後のハリケーンのシーンでは三者三様に窮地に立たされ、問題の深刻さというのも描かれていた。

 

若者の環境活動家のインタビューは、場面の間に前述の本筋と少し関係のある話が挟まれる。様々な国の人々の証言が使われることで、世界全体の共通の問題だという事が分かりやすく示されていたと思う。

 

一番会場が盛り上がっていたのが、環境問題を解決する気の無いイギリスの歴代の首相をものまねをしながら戯画的に描くというシーンで、トラスまでは映像があったが、スナクは口頭で言及されるだけだった。観劇した日(11/3)の時点で就任から一週間と少ししか経っていないし、こんなに変更が必要だとは想像していなかったんじゃないかと思った。あとボリス・ジョンソンまでの人はあまり馴染みがなく爆笑の波に置いていかれた

 

話だけではなくて、ダンスや身体表現もあり、映像ありと盛りだくさんの舞台だった。最後には観客全員でウェーブをするように促される、凄い政治的な時間だ!と思った。

個人的には、Alice役のAK Goldingが信じられないくらいチャーミングで魅力的で最高だったので今後も注目したい。

上演後の様子、QRコードからは感想フォームじゃなく、公演資料にアクセスできる