バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

青春スペクタクル吸血鬼物―ロイヤルエクスチェンジシアター『Let The Right One In』

原作はスウェーデンの作家ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの小説で、2008年にスウェーデンで『Let The Right One In(邦題ぼくのエリ 200歳の少女)』、2010年にアメリカで『モールス』として二度の映画化がされている。母子家庭で、アルコール依存の母親との折り合いも悪く、学校でもいじめられている主人公のオスカー。彼の家の隣に謎の人物エリが引っ越してきて、孤独な二人は仲を深める。ちょうどその頃、その街では謎の殺人事件が相次いでいて…。というようなストーリーだ。

 

ハロウィン時期に合わせた吸血鬼物の上演で、ポスターが恐ろしいので正直ドキドキしていたのだが、舞台の色使いは薄い水色やピンクなど明るい色も多く、オスカーとエリが関係を深めていくシーンは、観ていられない程の甘酸っぱい青春物だったのでそこまで恐ろしいこともなかった。オスカーの成長と小さなコミュニティで起こる悲劇をポップに描いている。演出はBryony Shanahan、デザイナーはAmelia Jane Hankin。役者は若い世代が多く、とちったのかなという場面が少しあったがほとんどは安定していた。

www.royalexchange.co.uk

ロイヤルエクスチェンジシアターは円形の特殊な形状の劇場なのだが、座付の演出家ということもあってか、その劇場の様々な機構を存分に生かしていて、観客の出入り口と同じ四方の出入り口が大きく開いて大きなセットが運び込まれたり、客席の二階部分の対面する二か所が突き出し舞台のようになっていたり、はしごがついてそこに登れるようになっていたり、客席の周囲がLEDで光るようになっていたり、舞台の床も線が入って区切られている部分が光るようになっていたり、スモークがめちゃくちゃ焚かれたり、雪が降ってきたり、人が吊られたりと特殊効果のオンパレードだった。特に吸血鬼物なので、吸血シーンは血糊、フラッシュ、瞬間移動などで最高潮に盛り上がった。非常に大雑把に語ってしまうのだが、ある授業で歌舞伎を調べていることもあって、このハロウィン吸血鬼物のスペクタクル性は、夏に納涼で怪談物をする歌舞伎のようなものなんじゃないかと思った。

畳みたいな床の境界線が光る、二階席三階席の側面も光る

 

また、同じ週の月曜日の映画学の授業がヴァンパイア特集で、先行研究を読んでいた。そこで、ヴァンパイア映画の特徴として「ヴァンパイアは必然的にクイアである」という項目があった。この劇でも、エリは、性別についてオスカーに聞かれると「Nothing」と答え、後に元々名前がエリアス(男性名)だったことを明かす。エリは執拗に「私が女の子じゃなくても好き?」ということをオスカーに訪ねるのだが、この時、性別と吸血鬼ということと二つのことが含意されているのだ。エリは男でも女でもないクイアな存在で、オスカーとの関係は単純な異性愛を超えたものだった。この孤独なものが惹かれ合うという感じ、最後に旅立つ感じ(漂流者であることもヴァンパイア映画の特徴)、『ポーの一族』と同じだ。これが吸血鬼物の特徴なんだということをよくよく学んだ。