バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

障がいとクイアとSMの関係性ー『DAN DAW SHOW』ー

信頼の厚いHOMEシアターでの上演。題名の通り、Dan Dawというオーストラリアでキャリアをスタートさせて現在はイギリスで活動しているアーティストの作品で、彼が手足に麻痺を持つ障がい者であるということと、クイアであるということが作品のテーマに関わっていた。2021年初演で、National Dance Awardsにもノミネートした作品。

dandawcreative.com

作品のテーマの一つは、「ケア」であり、上演前から、誰もが安心して観劇できる場を創るという事が意識されていた。プレショーが導入されており、衣装の変化や小道具、トラウマやストレスを感じてしまうかもしれない言葉を確認したり、音響照明変化を確認したり、制作陣に質問したりできる。また、この説明してくれる人の英語が今までイギリスで合った中で一番分かりやすい耳に自然に入ってくる英語で、上演もすべて字幕がついているので、私のような非ネイティブにも優しい上演だった。

プレショーの机、右が小道具で、中心奥が衣装を説明する写真



上演は、Dan Dawと健常者のChristopher Owen演じる‘KrisX’のダンスパフォーマンスだ。最初に導入の場面があって、前述の音響照明の変化や、二人の紹介、DanのセーフワードがSpoonであるという事が説明される。更にその後の場面でも何度か確認されるのだが、Danが自分の意思で同意してこのショーを行っているという事が明言される。

その後始まるのはかなり激しいBDSM的な場面で、KrisXがDan Dawに犬のように四つ這いで歩かせたり、口の中をスマホで撮って観客に見せることで辱めたり、唾液を飲ませたり、体の上に乗ったり、水をかけたりする。彼らの関係はとても性的で(fu*kingはしないと最初に明言される)、危険な行為をした後は抱き合い、二人で囁き合っているので、信頼関係が確かに存在していることも分かる。特に目立つのは、机の上にバランスを崩さないように立つ、Danをメリーゴーランドのように振り回すという行為であり、どちらも最初はDanがセーフワードを言って中止されるのだが、その後のシーンでもう一度挑戦する姿が描かれる。もう一度挑戦する場面では、より二人が調和的で、Danが自由な存在で、解放されたような雰囲気だった。

 

また黒いラテックスの箱のような所にDanが入って空気が吸われていって、体の線がぴちぴちに見えるまでになるシーンがあった。観客から見ると窒息しそうに見えるのだが、彼はrelaxedなスペースだと語る。最後の場面では、刺のような衣装を着てそれが空気で膨らみ大きくなる。空気が抜かれたり、入れられたりするのが何か対立的なモチーフとして用いられていると思った。

 

観客はKrisXの立場になって鑑賞してくださいという事が最初に説明されているので、障がいのある人を痛め続けるSMの関係性の中で、私たちは加虐の側に置かれることになる。これは、そもそもの社会に存在する健常者と障がい者の不平等な関係性と重なってくるのだが、更にそのような関係性を超えた新しいものが提示される。というのは、繰り返し、この関係がDanの意思に基づくものだということが確認され、窮屈そうな場面でも逆にこれが快適なのだという事が示される中で、Danの性的欲望が尊重され、示されているからだ。翻ってこれは、彼らの意思というものが軽んじられる、健常者の為に作られたバリアの多い社会のことも感じさせるようになっていると思った。

 

圧倒されながらも、新しい観劇体験が得れてとても充実した夜だった。