バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

今週の観劇三種ーGary Clarke Company『WASTE LAND』, IRIS Prize 映画上映会, House of Suarez『Vogue Ball』

 

マンチェスターでの観劇生活再開の始めは、まずお気に入りの小劇場での観劇からだ。

 

① Gary Clarke Companyの“WASTE LAND” (2019初演)

開演前の様子。友達と来たのに、色々あって分かれて座っている。

徒歩三分ほどの一番近いコンタクトシアターでの観劇。労働者階級の父親と子供の分断した親子関係の話であり、ストライキに関わる政治の話であり、ケアの話であった。COALという作品の続編として創られたらしい。

物語はイギリスの炭鉱の町Grimethorpeで始まる。ここでは、一年にわたるストライキが、「もっとも不名誉」と呼ばれているように成功せず、サッチャーの政策によって、1994年に炭鉱が閉鎖、多くの人が職を失った土地だ。幕が開くと、まず、そこで働いていたのだろうと想像できる中年の男性が、お酒に酔ったように千鳥足になりながら、自身の胸を刺すような痛ましい動きをしながら踊る。背景には、ストライキ当時のものと思われる映像が流れ、その当時を思い出して悲しんでいるようである。そこに老人たちが四人登場し、ブラスバンド隊も二人登場し、ストライキの歌のようなものを歌う。彼らは、コミュニティを巻き込んで創作を行うべきだという考えの元に選ばれた、地元の人達らしく、雰囲気もそのような感じだが、かえって歴史の証人のような印象が強まった。彼らが去ると、フードを被った若者たち五人が登場し、クラブやストリートで踊られるような若者のダンスを踊る。この作品はイギリスの「レイヴ文化」の30周年を記念して作られており、閉鎖された炭鉱の廃れた街中に新しい世代の彼らが入り込んでいくという構造になってるようだ。

その後、最も焦点が当てられてるのは、若者の一人と冒頭から登場している中年男性の父子関係だ。アルコールに依存し、メンタルに問題を抱えている様子の父親と、そのケアをさせられる子供という構造が示される。実際に彼らは対決し、ぶつかり合い、ストレスをためた息子は夜の街に出かける。部屋のセットは変わらず、中年男性が父親として、そして元炭鉱夫としての存在感を放つ中、再び「レイヴ」の文化に基づいたダンスのシーンが始まる。大音量のクラブミュージックと抽象的な柄や光の映像とともに始まり、カッコ良いのだが、やりすぎではないかという位長く続き、段々と集団の秘儀を見ているような、不安な気持ちにもさせられた。最後は息子が傷ついているところに、今度は父親が助けにやってきて、父子の絆が回復する。

 

全体的には、父親世代の炭鉱のストライキにまつわる政治的な部分と、子供世代の「レイヴ文化」の部分の繋がりが少し掴みにくく、対照的な二つの要素のままで上手く融合出来てないんではないかと思った。しかし、それは北部の元工業地帯であるマンチェスターの歴史やこの町の置かれている立場にあまり私自身が明るくないという事情があるかもしれない。両隣の人達はどちらもこの90年代の出来事を記憶しているような様子で、感極まり、熱狂している様子だった。

 

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②番外編:アイリス賞を受賞した2022年のBest of Iris映画上映会

LGBTQ+の映画祭であるIris Prize LGBTQ+ Film Festivalの受賞作五本の上映。上映前にディレクターBerwyn Rowlandsの解説がついている。

  

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5本の作品は、ゲイの聖職者と発展場で出会った少年の話だったり、人種だったり障がいのテーマが描かれたり(インターセクショナリティ‼ほぼ毎日この言葉に触れている)の短編の映画でどれもとても面白かった。

特に、Erich Rettstadt監督でアメリカと台湾で製作された“Tank Fairy”がキュートで、「シンデレラ」や「アラジン」のモチーフが取り入れられたりして面白かった。ガス交換屋さんの妖精と、ドラァグを夢見る少年の話だ。

 

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関西クイア映画祭でも上映されていたそうで、存在は知っていったもののチェックしていなかったのでもっと観に行っていれば良かったなと思った。まあ、日本にいる時の方がむしろ忙しいし、大阪といっても劇場に歩いて行けたわけではないだろうからな…。

 

③House of Suarezの“Vogue Ball”

クイアコンタクトという映画祭が前述のコンタクト劇場で開催されていて、それの初日を飾るBallとよばれるヴォーギング等の公演。普段の劇場の横にある、アカデミーと呼ばれるクラブ会場で行われた。三時間ほどあり、ずっと立ちっぱなしというのは厳しかったが、優しいお姉さま方が見やすい場所を譲ってくれたりして、視界は大体良好な場所で見る事が出来た。

優勝したグループ?そういう設定?が審査員から発表され、トロフィーを貰ってパフォーマンスをする。

リップシンク、ヴォ―ギング、コレオグラフィー、セックスなどテーマが決まっていて、それごとに何人、何団体かが登場し、審査員が評価するという形式だった。団体の際は、ハウスと呼ばれる名前で登場する。(追記:一週間後に授業で『パリ、夜は眠らない』を観たが、ボール、ヴォーギング、ハウス、審査員という形式が同様で、実際のクラブシーンの伝統から来たものだということを改めて学んだ。)

美しいお姉さまから、お兄さま、ドラァグの方などなど出演者も様々で全方面対応という趣。肉体的にも、技術的にもレベルが高い。高校生の時にヴォーギングの映像を観るのに異常にハマっていた時期があったが(東京ゲゲゲイ等)、生で観れたのは初めてだったので、本当に楽しかった。

また、司会、盛り上げ役の方が、みんな誰もが美しい、最高というようなポジティブな言葉をずっと掛け続けてきてくれるし、実際に老若男女誰もが会場にいて、少しお年を召したような方でも性別を問わない恋人たちとめちゃくちゃ楽しそうに踊っているのを見るのもすごく幸せな気分になった。日本の政治家はマジでお前らが国を出ろ。