バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

リピート向け?チケットが安いー『ロッキー・ホラー・ショー』ー

 最近、日本のTwitterで話題になっている、「ムーラン・ルージュ」のチケットが高すぎる問題。その流行に乗りつつこのブログを始めたいと思う。「ロッキー・ホラー・ショー」は日本でも去年2022年にパルコ主催、河原雅彦演出、古田新太主演で上演されている。私は、東京ゲゲゲイのMIKEYが振り付けを担当されていることもあり、宣伝も面白そうだし観に行こうと思っていた。しかし、大阪公演は、森ノ宮ピロティホールで全席指定13,800円。しかも何故か東京や広島では導入されているU-25割は大阪では無いという不遇ぶり。13,800円という値段の高さもまあ学生の私には払える値段ではないのだが、買ったところで、1000席以上のキャパの劇場で何故一番後ろの席と一番前の席が全く同じ値段なのだという不平等感がとても耐えられたものではない。日本版の演出はかなりオリジナル色が強くて面白そうではあるのだが…。

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チケット販売の例、大体7種類ほどの幅でチケットを選ぶことができる。


 

 それに比べて今回のオペラハウス公演、試しに明日の公演のチケットサイトを見てみたら、29.5ポンド~77ポンド(約5000円から約13000円)の間で五種類のチケットの値段から選べるようになっている。抽選式ではないので、高いチケットを買って非常に後ろの席になるという不幸も起こらない。しかも、今回私は金曜の16時半公演という平日の昼公演の席を一か月以上前に買ったので、13ポンド(約2000円)で一番後ろではあるが一階席のチケットを取ることができた。しかも、このATGチケットは公演72時間前で空席があれば3ポンドの手数料で違う日の同じ席種に変更させてくれるし、保険のお金をかけていたら返金もしてくれる。もちろん、イギリスは日本より観劇文化が根付いているため、平日でも劇場が埋まりやすくそういう変動的なチケット価格や保障をつける余裕があるという事情はあると思う。ただ、席の種類だけは増やしてほしい。ちなみに私の学生としてのチケットの感覚からいうと5000円がリミットで、もうそれ以上はかなり躊躇する。

ロッキーホラーショーの50周年記念ポスター。



 「ロッキー・ホラー・ショー」の話に戻ると、1973年に初演された今作は今年が記念すべき50周年のアニバーサリーイヤーで、ロンドンでも記念公演が行われるようだ。1975年に映画も上演され、記事によると世界各地で3000万人以上が来場しているらしい。

https://secretmanchester.com/rocky-horror-show-50th-anniversary-manchester/

あらすじは、ブラッドと婚約者のジャネットが大学時代の恩師に会いに行く途中、悪天候で偶然、謎めいたマッド・サイエンティスト、フランクン・フルター博士の不気味な屋敷に迷い込んでしまい、彼の作り上げた人造人間ロッキーも加わって騒動に巻き込まれていくという話だ。とにかく、前々回のブログに入れられなかったことを後悔するぐらいの、さらに観客参加が激しい作品で、観客は歌うわ、台詞は言うわ、踊るわ、ペンライトを振るわでガンガンに劇に介入してくる。最も特徴的だったのが、意図的に間違ったセリフを先に言ってしまうというやり方で、大体Fワードを中心に全ての行動の目的をFにしようとしてくる。俳優達も、ブラッドとジャネットは役柄的にもあまり反応しないが、ナレーターはかなり反応して返してくれるし、フルーターは彼自身大体目的はFなので、観客達に言うな言うなと内緒のポーズをしたり反応がある。他にも色々下品な大向こうたち(しかし歌舞伎と違って前方席にいがち)は、王室ネタっぽいこと等、色々言っていたのだが、中々これは聞き取って理解するのが難しかった。このアドリブパートの一番の盛り上がりが、政治、保守党批判で、政治自体には問題有とはいえ皮肉を言っていく姿勢は流石イギリスという感じだ。

一階席最後列からの舞台の様子。



 観客はまた多くの人がコスプレをしている。上がスーツ姿で眼鏡をかけて、下がガータベルトとパンツ姿という人を幕間に見てどういうコーデなんだと疑問に思ったが、これもスコット博士という二幕から登場するキャラクターのコスプレだった。私の隣に座った女性三人の集団もコスプレをしていて、そのうちの一人が開演前や幕間に少し「この劇を観た事があるのか?」等と話しかけてくれたが、彼女はもうこの上演で5回目の観劇ということだった。やはり、アドリブと観客参加要素があるからか、公演ごとリピートの観客率が他の公演に比べて非常に高く、だからこそ観客も仕上がっていくのだと思う。

 

もちろんパフォーマンスもレベルが高く、全員上手いのだが特に、主役のフルター博士役のStephen Webbとジャネット役のHaley Flaherty(マチルダの先生役もしていたらしい)の歌声が圧巻だった。作品はドラキュラとフランケンシュタインの融合といった感じでドラキュラのクイアであるという特徴を異性装でパンセクシュアルという博士がしっかり受け継いでいるということを感じた。50年前の作品と考えると十分新しいのだが、最後その博士が殺されてしまう結末や、逸脱を経験したカップルが結局異性愛に戻っていくという感じが何だかもの悲しく、全体的にも前半の盛り上がりに比べて後半は失速したような印象を受けた。カーテンコールでまた代表曲の’The time wrap’が歌われて、盛り上がるものの、ダンスシーンにはあまり乗れなかったのはこの悲しい結末にあるかもしれない。