バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

クイアジュークボックスミュージカル『Head over heals(ヘッド・オーバー・ヒールズ)』

 先週末、Hope mill Theatre という独立系小劇場に初めて行って観劇してきた。この劇場は、他の小劇場とは少し異なり、他のアーティストへの貸館事業よりも、新作や輸入作品を自分の劇場で製作し、ロングランで上演することを中心に据えたタイプの劇場のようで、前回もミュージカルの『シンデレラ』を上演していた。

開演前の様子。



 今回上演された、『Heads over heals』は、『アベニューQ』でよく知られる、Jeff Whittyが脚本を務めた作品で、2018年にブロードウェイで初演された。The Go-Go'sという80年代頃に人気を集めたアメリカ発ガールズバンドの楽曲で構成されたジュークボックスミュージカルでもある。

 

 物語は、エリザベス朝の詩人フィリップ・シドニーの『アーケイディア』(1590)を基にしているらしい。あらすじは、ブロードウェイの上演時の情報をまとめた以下のサイト(https://www.at-broadway-musical.com/shows/head-over-heels/)にもまとめられているが、エリザベス朝時代の、アルカディアという領地とその支配者層の人々のバタバタコメディだ。まず、アルカディアの公爵は、ドラァグ預言者から、四つの予言が成就した場合良くないことが起きるという神託を告げられる。これを避けるために彼らは旅に出るが、二人の娘のうちの姉の方は、騎士団長?の娘と恋に落ち、妹の方は、幼馴染の羊飼いと恋に落ちる。この羊飼いは、身分の低さから結婚することに反対されており、無理やり女装して旅についてくるが、公爵も、そして公爵夫人もこの変装した羊飼いに恋をしてしまい…、という展開だ。同性愛や異性装、ノンバイナリー性、トランスジェンダーといったLGBTQIA+のテーマが詰め込まれており、保守的で家父長制の体現者である公爵が変化していく物語でもある。

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 上演は、想像よりも更に小劇場的な空間で、狭い空間に10人ほどの演者が出てきてパフォーマンスをするので、客席との距離も近く、豪華だった。パフォーマンスもプロの完璧さというよりは、たまに不完全さ、手作りの雰囲気がにじむような感じではあるが、歌もダンスもずっこけることは無い。またブロードウェイでトランスジェンダーの俳優によって演じられたことで大きく話題になった預言者は今回も、トランスジェンダーでノンバイナリーだと公表しているIz Heskethによって演じられた。ただ、題材の新しさや面白そうな内容紹介で期待していた割には、余り満足できなかった。というのは、何故か台詞の英語が非常に聞き取りずらい(友達もそう言っている)、歌があまり盛り上がらない、劇の盛り上がりも少なくあまり内容が面白くないという点にあると思う。

 

 例えば、最後羊飼いに騙されたと思った公爵が決闘を挑んだり、そこで羊飼いが死んでから更に復活したり、預言者も家族の一員になったりと怒涛の展開をみせる部分があり、そこがカオスで面白くできそうなのに、何だかあんまり盛り上がることも、そのおかしさを強調することもなく、ただ冗長に感じられただけだった。

 

 薄々感じてはいたのだが、今回改めて難しいと思ったのは、観劇事前予習問題で、この作品は特に予習していかないと何が起きているのかさっぱりわからなかっただろうとも思うのだが、逆に予習していったことで先の展開が読めてしまい、演出や特殊効果での面白さがないとよりつまらなく感じてしまう。そんなのは日本の演劇でも起こりうるのだが、やはり内容を読めば読むほど期待してしまうし、でも読まずに行くと全く内容が入ってこないこともあるしでバランス感覚が求められると感じた。

 

 余談だが、この舞台のセットは杉原邦生式(暫定的にこう呼んでいる)の文字をネオンなどで表現するタイプだった。このタイプの舞台に関する情報をもっと集めていきたい。

 

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