ルーマニアのシビウ国際演劇祭は今年30周年の記念の年を迎えます。
このブログでは、「実際にルーマニアにボランティアに行くけど、何を見たらいいのか分からない…。」また、「行く予定はないけど、どういう演目が上演されているか気になる」という人向けに簡単な演目紹介をしていきます。
Qどんな演目があるの?
10日間の演劇祭期間中に、2022年は575作品、総勢3300人以上のアーティストが参加した。室内のパフォーマンス、野外のパフォーマンス、各国の招へい作品や大学の演劇科の上演などが行われる。
野外のパフォーマンス:サーカス、音楽ライブ、大きなパペットの練り歩きなど。今年も去年に引き続き、Living Statue Festivalが開催され、銅像になり切るパフォーマンスも街中で見れるらしい(Teatru Mascaというブカレストの劇団の主宰である演劇界の大物Mihai Mălaimareが指導を行っている)。特に一日目と最終日は町中心部で大規模なサーカス→劇場周辺でドローンショーの可能性が高い。
大学生のパフォーマンス:元々若いアーティストを集めて始まった演劇祭であることから、様々な大学のパフォーマンスがTheatre university festivalとして上演されている。大学も各国から集まっており、ルーマニアやドイツといったヨーロッパの国以外にもモンゴルや中国からも参加している。
各国の招へい作品:日本含め、ドイツ、スペイン、イスラエルなどある程度招聘される国の傾向も存在する。野外パフォーマンスではフランスのカンパニーが多い。今年はイギリスやオーストリア、ベルギーなどのカンパニーも来ることになっている。
Q上演を観に行こう!
基本的には、室内の公演は一回公演である場合が多い、一部の大規模なカンパニーの場合は、二回公演で朝から仕込みをして一日目に遅めの時間で上演、二日目に少し早めの夕方に上演→ばらしというパターンもある。そのため、面白そうな上演の重なり合いや、時間的な制約で気になる公演を観に行けない場合も…。(その悔しさがリピーターを生むという戦略でもあるらしい)。今年も代表的な演目にはオンライン配信があり、公演時間から24時間視聴することができる。チケットも大体30leiと、1000円以下で安い。(とはいえ私もオンライン配信はあまり集中できないので、難しいですよね)
Q気になる公演は?
「有名欧州演出家部門」、「ダンス部門」、「ラドゥスタンカ国立部門」、「日本部門」、「気になる部門」の5部門で大体三演目ずつ紹介していきます!
★有名欧州演出家部門★
6/29 20:00-21:30, 6/30 18:00-19:30
ミロ・ラウ演出『Familie』, NTゲント(ベルギー)
@Fabrica de Cultură - Construcții SA - UniCredit - Faust Hall
ミロ・ラウは、実際の事件に取材した社会・政治問題を批評的に扱うような作品に定評がある演出家。この作品も、2007年にベルギーで実際に起きたDemeesterという家族の一家心中事件を扱っている。俳優とその実際の子供という本物の家族が、謎の残る自殺前の最後の夜を想像・再現する。
日本でも知られた演出家で、2013年にSPACでルワンダ虐殺を扱った『Hate Radio』、2019年にあいちトリエンナーレで『コンゴ裁判』が上演されている。今年NTゲントを退任し、ウィーン芸術週間という有名な演劇祭の新ディレクターに就任することが決まっている。
6/30 16:00
エマニュエル・ドゥマルシー=モタ演出『Ionesco suite』パリ市立劇場&フィレンツェペルゴラ劇場(フランス、イタリア)
@ Studio Hall TNRS
パリ市立劇場の芸術監督、「フェスティバル・ドートンヌ」(アヴィニヨンの演劇祭と双璧をなすパリの演劇祭)のディレクター。
今回の演目はフランスで活躍したルーマニア出身の作家イヨネスコの『禿の女歌手』、『授業』、『Jack, or The Submission』、『Delirium for Two』等のテクストを使った作品。彼は、Festival/Tokyo2015で同じくイヨネスコの『犀(サイ)』を上演している。不条理劇なので、上演を見ても意味は分からないかもしれないが、演出は面白そう。(配信有)
7/1 16:00-, 7/2 18:00-
ケイティ・ミッチェル演出『(Not)the End of the World 』シャウビューネベルリン (ドイツ)
@Fabrica de Cultură - Construcții SA - UniCredit - Eugenio Barba Hall
イギリスを代表する演出家、「ケイティ・ミッチェルの演出術」という本が白水社から翻訳出版されており、日本でもある程度名が知られている。
もともと、リアルタイムでのビデオ撮影といった、映像やテクノロジーを用いた演出が特徴的。今回の作品は最近精力的に取り組んでいる気候変動な取り組みに関係する作品。ケイティ・ミッチェルは、最近ツアー公演で飛行機を使わない、現地で俳優を調達して上演する等の取り組みを行っている。
今回の作品は、舞台上で三人の俳優が二台の自転車を交代でこぎ、そこで発電された電気で上演の電気をまかなう。このような試みを通して、普段は不可視化されている舞台芸術の電気使用量を観客が感じられるようになっている。テクストはクリス・ブッシュによる気候変動を階級、家父長制、植民地主義的な観点から探求するもの。
シャウビューネ・ベルリンは現在トーマス・オスターマイヤーが芸術監督を務め、ドイツを代表する劇場の一つ。
★ダンス部門★ (言語が分からなくても楽しめるのでオススメ!!!!!)
6/28 20:00-21:30, 6/29 18:00-19:30
マリア・パヘス舞踊団によるフラメンコ作品『From Scherezade』(スペイン)
@ "Ion Besoiu" Cultural Centre
世界的に有名なフラメンコダンサーの一人マリア・パヘス振付、演出、出演の作品。タイトルにシェヘラザードとあるように『千夜一夜物語』をモチーフにしている。
2001年以降日本にもたびたび来日して公演も行われているカンパニー。シビウ国際芸術祭では、他にも結構フラメンコの作品が多く招聘されている。(配信有)
6/30 19:00-20:00, 7/1 17:00-18:00
ベルティゴダンスカンパニー 『Makom 30』(イスラエル)
@ "Ion Besoiu" Cultural Centre
イスラエルのダンスカンパニーは独特なスタイルでクオリティーが高い。近年は毎年一つは招聘されている(バットシェバ→キブツ→ベルティゴ)。ベルティゴは1992年にNoa WerthheimとAdi Sha'alにより設立されたダンスカンパニーで、特に環境問題への意識が高いらしい。(配信有)
7/1 19:00-, 7/2 16:00-
ピーピング・トム『Diptych: The missing door and The lost room』(ベルギー)
@Fabrica de Cultură Construcții SA– UniCredit - Lulu Hall
今年の2月に6年ぶりに日本に来日して、『Mother』という作品を上演していたカンパニー。「驚愕のテクニックと独創的なスタイル」「脅威の身体能力と奇想天外な物語」等と評されている。今回の作品は登場人物が理想を追い求めて旅に出て、迷宮に迷い込むという話。
★ラドゥスタンカ国立劇場部門★
(6/23 ホストファミリーのおすすめ・コメントを追記)
6/23 21:00 ←初日の一回公演のみ!
シルヴィウ・プルカレーテ『スカーレット・プリンセス』
@ Fabrica de Cultură - Construcții SA - UniCredit - Sala „Eugenio Barba”
言わずと知れた、歌舞伎の『桜姫東文章』を基にした作品で、去年来日公演済み。
主演のオフェリア・ポピとユスティニアン・トゥルク(以降ユスティ)のすばらしさ!何度見たっていいですからね…。(配信有)
6/24 17:00-18:20
ペーター・ハントケ作 "The hour we knew nothing of each other"
@Sala mare TNRS
ルーマニアのどこか、シビウかもしれない街中の200人の人々の暮らしを映し出すノンバーバルパフォーマンス。街の人や、はたまたドラキュラなどすごい量の衣装を変えるらしい。セリフもないので言語が分からず話についていけないこともなさそうだ。
前日の深夜までスカーレット・プリンセスに出演しているユスティはこの演目にも出演予定で、レパートリー制恐るべし。
6/26 16:00-20:15
アンドリー・ゾルダック演出『ロミオとジュリエット』
@Sala mare TNRS
若者版ロックロミジュリ?という感じで学生も参加しているらしい。ほとんど何もない舞台を音楽に乗りながら駆け巡っているイメージで、前述の桜姫をやったユスティが黒い翼をつけているシーン(何の役?マキューシオ?死の体現?)など気になることも多いのでこれは、絶対に見たい。ただのファンなので…。(配信有)
アンドリー・ゾルダックは、シビウ国際演劇祭に元々常連のウクライナ出身の演出家。現在はドイツ、ハンガリー、ルーマニアなどを中心に活躍している。(だが、調べているうちに、ハンガリーで女優を平手打ちして告発されていることが分かった…)
6/28 22:00-
@”Radu Stanca” National Theatre - Big Hall
去年の『三人姉妹』に引き続き、オフェリア・ポピが演じるチェーホフシリーズ(?)主役のラネーフスカヤ夫人を演じる看板女優のオフェリア・ポピが気になる!また、完全に舞台がブラックボックスで、ト書きを完全に無視し、セットが作られてない『桜の園』は観たことが無いのでその点(2時間の上演時間それで行けるのか…?)が気になる。(配信有)
6/29 22:00-23:15
Andrei & Andreea Grosu演出 『MASS』
@Fabrica de Cultură - Lulu Hall
私は見落としていたが、オフェリア・ポピの熱烈なファンであるホストファミリーが推薦する作品。ある事件の加害者家族と被害者家族が対話するという痛みや家族愛に関わる話で、オフェリア・ポピが片方の母親を演じ、涙を流す演技が抜群に上手いらしい。オフェリア・ポピもこの前日の『桜の園』からこの後の『ファウスト』までカロリーの高そうな役を連続で演じていて、毎度のことながらすごい。
7/1 ,7/2 21:00- ←最終日とその前日
シルヴィウ・プルカレーテ演出『ファウスト』
代表作品、見ずには帰れない作品。メフィストフェレスを演じるオフェリア・ポピの熱演と、途中舞台が半分に割れて、移動した先で繰り広げられるワルプルギスの夜の場面のスペクタクル!
★日本部門★
6/23 19:00, 6/24 16:00
@GONG Theatre - Downstairs Hall
6/28 22:00
@ Fabrica de Cultură - Construcții SA - UniCredit - Eugenio Barba Hall
6/30 16:00, 21:00
@Sibiu State Philharmonic
夢幻能の形式で、ゲーテの墓に座っている謎の老人を神父(?)が注意すると、実は悪魔に抵抗できなかったファウストですといって祈禱を頼んで立去る→ファウストが現れて舞うという形式のよう。気になる!(配信有)
7/1 20:00-
@GONG Theatre - Downstairs Hall
創立35周年の2019年に新作として上演された作品。オリジナルに台詞が付け加えられて、「剥製」や「終末」的なモチーフが用いられているらしい
★気になる部門★
・シェークスピアの『ロミオとジュリエット』が計四作品も上演される!
sibfest.ro↑モルドバの国立劇場の上演
・チェーホフの『かもめ』も3作品も上演される!
・オーストリアのBurgtheaterによるマルチメディア上演のオスカーワイルド『ドリアングレイの肖像』
顔に金箔を貼っているようなイメージの強烈さ
ルーマニアに行こう!と言っても簡単に行けるのは本当に限られたお金と時間を持っている人や、競争を経てボランティアに内定した人、質の高いパフォーマンスをもっていくアーティストに限られるかもしれませんが…、それでも機会を得たからには楽しみたいし、その機会に恩返しがしたいということでブログを執筆しました。前回の演劇祭期間中に書いていたブログはこちら↓
明らかに後半失速していますが、ピックアップしていない作品でも、面白そうな作品は無限とあるので、プログラムを見て他の作品もチェックしてみてください!