バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

交換留学記:Dramaコースの授業振り返りvol.2 in イギリス

第一セメスター後のブログに引き続き、交換留学で学んでいるマンチェスター大学で第二セメスターで勉強したことを簡単にまとめ、紹介していく。

bnanananana7.hatenablog.com

今回は、特殊な履修方法で、演劇学の授業を2つ受講して、もう一つは留学生向けの負担の少ない英語の授業を受講し、空いた時間に演劇学の授業二つを聴講?オンライン教材で勉強した。

演劇学の建物。講義で使ったり、先生たちの部屋があったりする。

1. 演劇とパフォーマンス2(一年生の必修)

1.パフォーマンス

2.パフォーマティブ

3.パフォーマティビティ

4.オーディエンス、観客論

5.参加

6.劇場、サイトスペシフィック演劇

7.エコロジー

8.ライブ性、VR

9.アーカイヴ

10.レパートリー(ダイアナ・テイラーの文脈)

パフォーマンス学の授業。それぞれの授業で文献を二つほど取り扱って、理論を勉強する。特に前半の5回はその文献を要約する課題があり苦しかったが、多少パフォーマンス学の基本知識がついた感じがするので、その点は本当に良かった。文献は例えば、リチャード・シェクナー、ペギー・フェラン、J.Lオースティン、ジュディス・バトラーランシエール、グラント・ケスター等。

文献と合わせて、パフォーマンスも各2作品ずつほど取り扱う。Tim Crouchの『An Oak Tree』とか、ウースターグループの『ハムレット』とか映画の『ロンドンロード』等。

逐一Twitterで面白い作品はシェアしているのだが、特に授業で紹介されて面白いなと思ったのは、以下の二つ。どちらもYOUTUBEで見ることができる。

Wildworks/National Theatre Wales, The Passion of Port Talbot ナショナルシアターウェールズの受難劇で受難劇の形式を用いながら、新しい神話の創造をしている。

72時間、三日間の間、サイトスペシフィックに行われた。本番前から遭難したというチラシが町中に貼られていた謎の教師が海岸から登場し、段々救世主として崇められていくが、町を牛耳ろうとする大会社に目をつけられて最終的に十字架にかけられるという話。『The Gospel of Us』という題名で映画化もされている。大体YOUTUBEの作品は集中できないが、この作品は面白すぎて見ることができた。演劇として最大級の面白さを発揮していると思う。観客が自分の携帯などで撮影した映像も沢山投稿されていて、色々な視点から出来事を追うことができるのも面白い。

youtu.be

Jeremy Deller, The Battle of Orgreave ジェレミー・デラーのストライキ中の炭鉱労働者と警察の衝突を扱ったリエンアクトメント

youtu.be

セミナーは、友達とは離れ、うまく友達も作れなかったが、担当の先生が前回の近代演劇の授業でも担当を持ってもらったDavidで、アメリカ英語なので理解もしやすいし、コミュニケーションも取ってくれるし助かった。運が重要です。

課題は前述の各文献を250-300文字で要約するというものと、2000-2500文字のレポート課題。Twitterを見ている人には明らかだが、リエンアクトメントにハマって、前述の炭鉱のリエンアクトメントとホー・ツー・ニエンの『ヴォイス・オブ・ヴォイド』を例に歴史的な出来事を再現する利点とリスクについて書いた。海外の作品はミロ・ラウとか、ウースターグループとか、リミニプロトコル等で考えたが、見ていなくて一から文献を読んで想像するのは時間がかかるし、日本ではリエンアクトメント的な作品にも別にこの用語が使われていないので、例を探すのが結構大変だった。

結構、Twitterで調べると、知識豊富な演劇ファン、学生、アカデミアの人の投稿で作品に触れられていることもあって助けられた。ありがとうございます。他の大学ではもっとパフォーマンス学とかやってるのだろうか。東京の芸大とかの方がむしろやってそう(イメージ)。

 

2.パフォーマンスと気候変動(2年生向けの授業)

1.Anthropocene (人新世)

2.Energy(エネルギー)

3.Waste (ゴミ)

4.Transcorporeality (超身体)

5.Entanglement (もつれ、絡み合い)

6.Extinction(絶滅)

7.Hope(希望)

8.Care(ケア)

9.Resilience(レジリアンス)

10.プレゼンテーション

11.Ergon theatre の人の劇作ワークショップ

3時間のセミナーの授業だが、1時間はレクチャーと呼ばれる授業をして、その後2時間ほどが討論のパート。3人の先生が持ち回りで担当していて、これも各テーマごとに文献とパフォーマンスを見てくるというのが予習。

新しく学ぶことばかりで難しい部分もあったが、ゴミの美学(aesthetics of vulgarity)で、スカトロジー的なものの力を強調する演劇とその例とか、動物を主役に据えた演劇とか新しいことについて学ぶのは楽しかった。先生の出自的にも、ヨーロッパやアフリカ圏の演劇を扱うことが多く、石油産業についての演劇などは日本ではあまり聞くことがないのでその点でも面白かった。例えば、石油の演劇とは、エラ・ヒクソンの『オイル』で、キャリル・チャーチルっぽい手法で1人の女性とその娘が時代と場所を超えて様々な形でエネルギーや石油産業に接点をもちながら生きるみたいな話だった。日本でも上演されてるのが観てみたい。

ワークショップはエラゴンシアター(https://www.ergontheatre.co.uk)の人のワークショップでとにかくお題に沿って演劇のアイデアを膨らませていくというものだった。参加者が全体の5分の一の5人ほどしかおらず震えた。大体みんな平気で授業に来ない、皆勤賞はもしかしたら私だけかもしれない(普通に休む理由もない)。

課題は一つ目がグループプレゼンテーションで、友達や知り合いと離れ、あまりやる気のない人たちと一緒にやったので結構大変だった。テーマは、中学生の時の課題研究でもやった「ファストファッション」のゴミの問題に関するパフォーマンスのアイデアを考えるというものになった。結局、NIKEをシンボルのブランドとして扱い、ロイド・ウェバーの『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』を元にしたミュージカルで、最後にニケー(NIKEだから)のデウス・エクス・マキナが「just do it」(NIKEのスローガン)と言いながら何も問題を解決しないという話を発表した。今上演されている『エンジェルス・イン・アメリカ』みたいな感じでニケーはフライングで天使の羽をつけて降りてくるイメージだ。

二つ目が最大3000文字のエッセイ。質問がどれも難しく、かろうじてできそうかなと思うのがまたごみの話題だった。高校演劇の時もゴミ屋敷の話を作ったし、ゴミが好きなのかもしれない。これもTwitterを見ている人にはバレバレだと思うが、渡辺源四郎商店の畑澤聖悟の『さらば原子力ロボむつ〜愛・戦士編』と岡田利規の『能・敦賀』で原子力のゴミの問題について書いた。こいつさっきから日本の演劇ばっかり例に使ってやがると思われると思うが、やはり言い訳とすると見ていない作品について書くのは非常に難しいので、作品の例を使って書きなさいという質問だと知っている演劇の中で書くことになりやすい。

この授業の先生の1人であるCara Berger先生が開講していたカーボン・リテラシーコースも並行して受講したが、こちらはより実践的な、環境問題に劇場やアーティストはどのように対応していけるかというものだ。他の受講者が前セメスターの演劇とパフォーマンスで担当だったKate先生など、先生が沢山いて緊張したが、だからこそ受講生同士の知っている事例の紹介なども充実していて面白かったので、また時間があるときに紹介したい。

 

3.アカデミック英語の授業

ドラマコースじゃないじゃないか!というタイトル詐欺だが、除外するのもおかしいので一応書いておく。私の予想通り、授業は3時間あるが、予習は軽く、受講生も5人だけで気楽。最初は毎回英語の短編小説を2作から3作読んでいたが、先生が結構テキトーでだんだんなくなっていった。

課題は、小説とそれを原作にした映画の比較評論レポートと、マンチェスターに関するプレゼンテーション。映画の方はグレタ・ガーウィグの『Little women(若草物語)』で、プレゼンテーションは、マンチェスターの劇場紹介のブログを元に、環境やジェンダーなどのエシカルな観点から面白い取り組みを紹介し、ランキングを作って発表した。全然ウケが良くなかった…。

 

4.聴講の授業1 ドラマトゥルク

元々受講しようと思っていたが、コロナ禍限定の授業(?)らしく、開講されていなかった。ただ先生が最初の履修登録や気候変動のクラスなどでお世話になった前述のCara先生だったので資料をもらって勉強することができた。オンライン勉強用に元々作られているので、とても勉強しやすかったし、ヨガの時間とかもあり、2020年2021年頃のオンライン授業を思い出した。

授業は、プロダクションドラマトゥルギーブレヒトのレガシー、翻案ドラマトゥルギー、ポストドラマドラマトゥルギー、キュレーション、フェスティバルなどのテーマをそれぞれ学んでいく形式。ドラマトゥルクの仕事については平田栄一郎先生の書籍や少数の論文で触れるのみで、興味はあってもよく分からなかったので色々文献を知ることができただけでも収穫だった。

 

5.聴講の授業2 イギリスの劇作家とジェンダーセクシュアリティ

これも元々受講しようと思っていたが、他の授業とかぶっている、予習が戯曲2,3本を読んで分析してくるというもので重たすぎる、授業が3時間の討論、担当の先生が私の耳がいまだに馴れないKate先生ということもあって、戦略的撤退をし、授業資料にだけアクセスできるようにしてもらった。正直に言うと、やはり想像通り予習の戯曲を読む課題が重すぎるので、とりあえずダウンロードをして置いておいている文献が多い。戯曲はノエル・カワードの『生活の設計』や、アガサ・クリスティーの『ねずみとり』、キャリル・チャーチルの『クラウドナイン』等々。講義の動画は一通り見たが、読んだことのある戯曲以外の講義は良く頭に入ってきていないので、やはり戯曲は読まねばと思っている…そりゃそう…。

 

こんな感じで授業期間はかなり短いので、気づいたら終わっていた。演劇学のコースと言いつつ、全く接点の持てなかった先生は沢山いるし、ケアの演劇とか、刑務所演劇とか特色ある授業も受けれてないのは少し残念。すごく幅の広いカリキュラムで、色々な面から演劇を学ぶことができる。一方で、演劇学の人は演劇学の授業三つだけしか取れないというのもそれはそれで他の分野のことが全く学べないし、結局全然授業に来なくても成績には反映されないためさぼる人も多い。ということで、カリキュラムとしては一長一短あるなと感じた。先生の人数が多いのは単純に羨ましい。うちの大学の演劇学の先生はどうなるのだろう…?