バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

4月から5月前半の観劇~『Drive Your Plow Over the Bones of the Dead』『熱いトタン屋根の上の猫』『王様と私』~

学期末で課題に追われ執筆の時間が取れず、溜まっていった観劇作品について記録をつけていきたいと思う。ほぼ一か月前の作品もあるので、あやふやな感想になるかもしれない。

全部一気に書こうと思っていたが、かなり長くなってしまいそうなのでとりあえず3作品ずつ取り上げる。

4/26 コンプリシテ『Drive Your Plow Over the Bones of the Dead』

@Lowly

thelowry.comノーベル賞作家Olga Tokarczukのノワール小説を基にした作品。ポーランドに住む、Janina Duszejkoという老いた女性が、地元の狩猟クラブの男たちの不可解な死の謎に迫っていくという内容。動物であったり、老いた女性であったり、社会の周縁に追いやられている力のないものたちが権力を持つ男性に復讐するという話だ。動物の絶滅や生命の価値に関わる議論も含まれており、動物を殺すのは犯罪でなく、人間を殺すのは犯罪だという非対称な関係性に疑問を投げかけている。

舞台の中心にマイクが置いてあって、基本的にJanina Duszejkoの視点での独白によって劇は進んで行く。この主役のJaninaはキャサリン・ハンターが演じており、身体表現によって、様々な痛み(動物や自身の病気での)の感覚を伝えるのが抜群に上手いなと感じた。最前列に座っていたので、客席降りの時は隣に座って、腕を触られた(ミーハーなので嬉しい)。

サイモン・マクバーニー演出の作品は始めて観たが、映像やアンサンブルの俳優の使い方が良く、ミステリー的な内容も相まって引き込まれた。

ただ、環境問題に関わる劇ということもあり、真後ろの席に偶然「気候変動と演劇」の授業の講師で色々とお世話になった先生が座っており、少し緊張した中での観劇となった。

4/29 ロイヤルエクスチェンジシアター『熱いトタン屋根の上の猫』

@Royal Exchange Theatre

テネシー・ウィリアムズ作の1955年に初演された作品。南部の大農場主の次男で、フットボール選手として活躍したという華々しい経歴を持つ主人公のブリックとその妻のマギーを中心とした家族劇。ブリックは、友情を超えた愛で結ばれていた親友のスキッパーの自殺によって、酒浸りの生活になり、妻からの誘惑も拒んでいる。ただ、大農場主の父の病気が発覚し、兄との相続の争いが起こって…というような物語。この上演は、一人を除いてほとんどオールブラックキャストだった。南部の物語であることや大農場主という設定を批評的に捉えて再演しているということだと思う。演出家は今シーズンで退任の決まっている劇場の芸術監督Roy Alexander Weise。

脚本を読みたかったのだが、日本語翻訳は手に入らず、英語を読む時間もなかったので、かなり早口でしゃべられる英語を聞き取るのがかなり難しかった。かなり上演時間も長く、少し退屈してしまった部分もあるので重要な翻案や違いなどには気づくことができていないと思う。代わりに、舞台セットが読解の余地のある象徴的なものばっかりで、見ていて面白かった。例えば、舞台中心に鎮座するベッドは二人の夫婦関係の不全であったり、性的な関係を巡る問題が登場人物や劇自体に大きな割合を占めていることを感じさせるし、どういう名前で表現すればいいのか分からないが、てこの原理でお互いにバランスを保ちながら揺れている天井の照明はギリギリのバランスで成り立っている家族関係を思わせるものだった。

もともと四月の初めにチケットを取っていたのだが、役者のケガで当該公演が中止に、ブリックのケガの設定は元々戯曲で指定されているものだと思うが一瞬、どっちだったっけと思ってしまった。ロイヤルエクスチェンジは、既成脚本ばかり上演するわけでもないのに、前シーズンの9月にも『ガラスの動物園』を上演していたので、テネシー・ウィリアムズを推している劇場だと思う。芸術監督の好みだとすると変わるかもしれないが…。

上演の舞台の様子

5/10 ミュージカル『 The King and I』

@Manchester Palace Theatre

劇場の壁の宣伝美術。

日本でも上演のある『王様と私』のツアー公演。よく知られていると思うが1860年代のシャム王国(タイ)とそこで家庭教師としてやってきたイギリス人女性の話。王のモデルはタイ国王・ラーマ4世、家庭教師のモデルはアンナ・レオノーウェンズで、彼女の書いた書籍を基にミュージカルが作られている。

元々彼女が自身の功績を強調して書いているので、王国の近代化や死刑の廃止、土下座をする礼の廃止等は全て西洋人としてやってきたアンナの教育によるおかげですよ、タイの国王は暴君ですよと描かれている。高校でラーマ四世は偉大な指導者であるという風に習い、記憶に残っていることもあって、この西洋中心主義的な描き方は問題だと思った。また、女性と男性という視点で見るとフェミニスト的である家庭教師と男性中心的な王家ということで現代的な意義も見出せるのかもしれないが、とはいえ特権階級的な白人家庭教師女性が活躍したところで、彼女がアジアの従属しか知らない女性にフェミニズムを教えるという描き方も問題があると思う。そのため、ストーリーには全く共感できず、うわぁ帝国主義という感じだった。誰か史実に取材して翻案作品を作った方がいいんじゃないか?(もうあるかもしれないが…)元々話もそんなに面白いと思えない。

アジアのキャストが使われているのは良いことだとは思うが、途中で白塗りに頬紅を強調したような、アジアの伝統的な化粧を面白おかしく強調するような描写があったり、扇の使用など色々なアジアの芸能をごっちゃにし、しかもそれを面白いものとして上演する、観客の失笑が聞こえてくるというのはきついものがあった。この感じ方は観客がほとんど白人の年配層である中で見ていることにも強く影響されていると思う。

唯一、面白いなと思ったのは、イギリス王室のチャールズ三世の戴冠式のすぐ次の週の上演だったので、最後国王が死んで、若き王が自分が王としてやっていけるのか等と葛藤しながらも、王の座を継いでいくという展開が思いがけず現実と重なって見えたことだ。まあチャールズ三世はこんなに若くないんだけどと思いつつ、今上演を見ている国も「王」のいる国で、この作品も「King」の話だったということを強く感じた。同じ状況で『Lion King』を観ても同じことを考えたかもしれない。

というか「Shall we dance」ってこの作品の曲だったのか。アメリカ版や宝塚版も作られたあの映画の方の印象が強く、原作を知らなかった。