バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

シビウ国際演劇祭 2024を振り返る

ルーマニアのシビウ国際演劇祭は今年31周年を迎える演劇祭で、今年のテーマは「Friendship」だ。10日間の演劇祭期間中に、82カ国の5000人を超えるアーティストが830ものプログラムを上演した。

前回までのように演劇祭中から丁寧にブログを書き始めることはできなかったので、印象に残っていることなどをポツポツと書き残していこうと思う。

 

★ボランティアとしての仕事について

私は、今回が3回目の参加になるが、3回とも、ある劇団の担当について、仕込みから上演までをサポートするというカンパニーアテンドを担当している。基本的な仕事(フェスティバル側からのバッグを用意する、書類にサインをもらう、ホテルの予約を確認する、バッジを回収するなど)は同じでも、通訳がいるか、字幕の確認がいるか、仕込みをどれだけ手伝うか、ケータリングが必要かなどは、その劇団ごと、その公演の規模ごとに全く異なる。そのため、同じカンパニーアテンドでもやっている仕事の内容はバラバラである。

今回は自分の担当したカンパニーに加えて、ヘルプ要員で中国のダンスカンパニーに一日だけ参加したり(ちゃっかり集合写真には映り込んだ)、担当していない日本のカンパニーに通訳要員、ヘルプ要員として一瞬入ったりすることがあり、様々な団体を体験することができた。特に中国のダンスカンパニーは、一回目の参加の際にキブツダンスカンパニーを担当し、孤独と無力感に打ちひしがれたファブリカデクルトラという会場での上演だったので、少しは役に立つことができて成長を感じた。ただ、この時の最後の仕事は、本番中に最前列から振付家スマホで映像を撮るというもので、スマホの設定言語をわざわざ日本語に変えてくれる優しい振付家のために頑張りたかったが、人が入った劇場で、エアコンの利かない灼熱のルル・ホールで、手持ちで綺麗に撮影するのは非常に難しかった。こういう仕事も存在する。

その他にも、VIPアテンド、撮影隊、パフォーマンスのエキストラ参加、チケットのもぎりなどなど様々な仕事がある。今年は例年よりもエキストラに参加する人が多く、知り合いの参加する野外パフォーマンスを観に行ったり、行けなくとも写真や映像で確認するのは楽しかった。

 

★観劇について

今年は今までの二年間と比較すると、段々と観客が戻り始めており、空席を狙ってみようと思っても、ハイライトの作品や狭い会場での上演だと、入れないことが多かった。また運良く入れたとしても、観劇に集中することが難しかった。というのも、疲れて寝てしまうということもあるが、とにかく劇場内にエアコンが効いておらず、暑かったからだ。観客やパフォーマーの中にも救急搬送される人も多く、劇場内でバタンという誰かが倒れる音が聞こえることもしばしばあった。

灼熱のルル・ホール(ファブリカデクルトラ)での、スザンネ・ケネディANGELA (a strange loop) 』夢と現実の境界で観ることになった

 そんな中でも、担当する劇団以外で最初から最後まで集中して観ることができたのは、主催であるラドゥスタンカ国立劇場の演目が多かった。特に、『Teorema』、『かもめ』『ファウスト』だ。

『Teorema』はEugen Jebreanu(イェウジェン・ジェブレアヌ)というルーマニア出身で近年はパリを拠点に活動している演出家による演出で、ピエール・パオロパゾリーニ監督の同名の映画の舞台化である。物語は、あるブルジョワの家庭に謎の青年が訪れ、その青年に、夫、妻、娘、息子、家政婦といった家族全員が魅了され、肉体関係を持ち、青年が去るとそれぞれ変容していってしまうというものだ。上演では最初に物語が説明されるものの、その後はほとんど言葉は用いられず、ただただ謎の青年と家族が触れあい、関係を持っていく様が描写される。イェウジェンの手掛けるほとんどの作品で舞台美術や衣装を担当している、Velica Pandruの舞台美術が非常に美しく、砂や車、ネオンライト、紗幕などがラテン、そして耽美な雰囲気を演出していた。

ラドゥスタンカの俳優陣の演技もよく、主役のGyan Rosのラテンで謎めいた雰囲気、『スカーレットプリンセス』で長浦をコミカルに演じていたAdrian Matiocのダンディな父親役、『ロミオとジュリエット』でロミオを演じたRadu Costeaが息子役として、めちゃくちゃな絵を描くようになったりと、いくつかの作品を観てきたことで、比較することができるのも面白い。特によかったのは、Antonia Dobocanで、ほぼ同世代なのだが、少しハスキーな声が魅力的で、様子のおかしい女性を演じさせると一級品であるような気がする。去年も『ロミオとジュリエット』で欲情し続けているキャピュレット婦人を演じ、この前日にも後述する『かもめ』でマーシャを激しく演じていた。

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感激冷めやらず、道端に貼ってある『Teorema』のポスターを撮る。

『かもめ』はDumitru Acriș演出。作品紹介の方でも言及しているが、毎シーズンオフェリア・ポピが重要な役を演じるチェーホフ作品が上演されており、前々回が『三人姉妹』、前回が『桜の園』、今回が『かもめ』である。ファブリカデクルトラで突き出し舞台のような形の舞台での上演で、作中のトレープレフとニーナの舞台を意識しているようだった。疾走感があり、急に舞台上で激しくこけるというのが将来への不安や上手くいかない雰囲気を醸し出していた。オフェリアがアルカジーナを演じ、その息子のトレープレフを、『スカーレット・プリンセス』で桜姫を演じるユスティニアン(以後ユスティ)が演じ、そのコンビネーションを味わうことができたのも良かった。ただ、ルーマニアは日本と同じく、演出家のハラスメント問題がまだまだ解決しておらず、この演出家も、私生活と稽古場での悪評(酒癖、深夜まで稽古を続ける)が私の耳にまでも漏れ聞こえてきているので、俳優達が心配である。

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『かもめ』のカーテンコールの写真、これも灼熱のルル・ホール

ファウスト』はもちろん最高だった。毎回演出、例えばフライングの可動域などが変化しているような気がするのだが、現地の子に聞いてもそんなことは無いと言われるので、毎回新鮮な気持ちで観ることができているということだと思う。いつもボランティアということで無理やり入れてもらえるため、座席ではなく階段で観劇することが多く、舞台上に見えない部分はあるものの、階段でもオフェリアが演技することがあるので、間近で演技が見れて非常に贅沢だ。14歳のホストシスターがオフェリアの強火ファンなので自慢しておいた。

何よりも優先して観てほしいのだが、今後『ファウスト』を観る人のためのアドバイスを残しておくと、二幕のワルプルギスの夜の場面で舞台奥に歩いて移動するときは、早くも遅くも行き過ぎないことが重要だ。とにかく奥にいけというジェスチャーをされるが、奥に行くと何も見えないので、突き出し舞台のようになっている所のへりに待機するのが一番見やすいと思う。それかその場所を取れるかに不安がある場合は、中央以外にも下手の端の通路があるので、そこに行ってしまうとどこからでも見やすい場所を確保することができる。

その他にも、エマニュエル・ドゥマルシー=モタ原案の、『Poetic Consultations』という作品があった。公園や通りに白衣を着た俳優達がいて、一対一でカウンセリングをした後、その人にあったおすすめの詩を選んでもらい、朗読してもらえるというものだ。元々、ユスティのインスタグラムでこういう作品があるということは知っていたものの、ボランティアとして働いている間は難しく、ただのファンなので普通に一対一で話せる気がしていなかった。しかし、最終日にパッと時間が空いたので、勇気を出していってきた。

とはいえ、同行してもらった方のカウンセリングをみて内容を把握したり、ビビッて現地の友達にラインをして励まされたりしているうちにほとんど最終の時間になってしまい、焦りながら緊張しながらでめちゃくちゃだったと思う。無事ユスティに詩を選んでもらい、写真も撮ってもらえて、大満足だった。あとから考えると、今回の演劇祭ではそこを逃すと全く話すタイミングは無かったので、幸運だったと思う。

 

★シビウでの生活について

シビウではホストファミリーの家に滞在した。去年と同じファミリーなので、人見知りな私もやっと心を開くことができ、ファミリーからも去年とは全く違う性格(よく笑うし、ジョークを言う)という風に言われた。ただ、演劇祭期間中は、彼らが起きている時間に家に帰れたのは一回きりで、あとの九回は夫婦の寝室を横切り、一瞬でベッドにダイブするという日々が続き、朝もほとんど会わずに慌てて準備をして出ていってしまう。去年はそれでほとんど話せなかったが、今年は道端や劇場で会うことも多く、どんどん関係を深めることができたと思う。ホストマザーとは演劇の話ばかりしているが、彼女は保守的で伝統的な作品が好きで、私は前衛的な作品が好きなので、私が勧めた作品(ローザスなど)は大体不評に終わってしまう。ただ、作品の評判や裏話を聞くのは楽しかった。

演劇祭期間中にホストシスターが森で拾ってきた子犬、かわいい

また、演劇祭では劇場内の駐車場でクラブが開催され、毎年たくさん行ったり、行かなかったりする。今回は回数としては少なかったが、イギリスでの交換留学と『&Juliet』の観劇を経て、知っている洋楽が増えたこと、またある日本人ボランティアの方々が非常に盛り上げるのが上手かったこと、仲良くなったルーマニアの友達がほぼ毎日クラブにいたこともあり、クラブと良い付き合い方ができた。ただ環境が良かっただけでやっぱり苦手なのは変わらないので、この後行くドイツの演劇祭がとても不安である…。

 

全くまとまっていないが、ここらへんで締めようと思う。

来年もまだヨーロッパにいるので、観客としてであってもまた行きたい!

ただ、演劇祭が楽しすぎるがゆえに、就職もせずにのめり込んでしまいそうなので、そこには気をつけたい…。円安のヨーロッパは大変だ…。

今年のダン・ペルジョウスキさんの『Horizontal Newspaper』

公式のグッズ売り場、毎年場所が変わっているので注意!

デカい野外のパフォーマンス。今年は本当に暑いし、時間もないし、一瞥するだけになってしまう作品も多かった。

観た作品・カンファレンスリスト1(一瞬見たもの含む)

観た作品・カンファレンスリスト2(一瞬見たもの含む)

観た作品・カンファレンスリスト3(一瞬見たもの含む)