バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

30周年のシビウ国際演劇祭 3~4日目(6/25・6/26)

三日目と四日目の観劇についてのブログを書いていく。すごく暇なわけではないのだが、夜には時間があるので沢山演目を観ることが出来ている。

“Arrived” @Youth Park(屋外)

噴水に入る前の様子。真ん中にいる衣装を持っている人は観客。

スペインとリトアニアの男女2人による路上パフォーマンス。公園の中でどこで始まるんだろうと思っていると出演者を乗せた車がやってきて、登場し、トランクを持って公園内を回りながらいくつかの種類の短いパフォーマンスを行うという形式だった。観客で男女のカップルが花を贈る様子を再現したり、観客に観客がマッサージするようにしたり、口をつけずに水を飲み、観客にも飲ませたり、小さい子をトランクに乗せて、チョークで地面にthe  future of Romaniaと書いて出演者や観客が握手をしたりと、すごく豪華なものではないのだが、クスっと笑えて面白かった。最後は、噴水で、観客をハンガー代わりに見立てて服を脱ぎ、2人でそこに飛び込んでキスをしてフィナーレ。そのあと、出演者のおじさんから私も頰にメチャクチャキスされた…。

Judy’s Harmonica Ensemble “Harmonica Rhapsody”  @The Nicolae Bălcescu Land Forces Academy (屋内)

 中国や台湾のハーモニカのグループ。ゲストの希望で付いて行ったので、元々予定しておらず、色々な他の連絡をしていたため、入場もとても遅くなってしまったのだが、とても良かった。『ララランド』『魔女の宅急便』といった作品の映画音楽や、『ルーマニアン・ラプソディー』が演奏され、様々な種類のハーモニカの奏でる、音の厚みがすごかった。会場も普段はパスポートがないと入れないと言われる陸軍学校の内部で、厳重な入り口を入り、銅像や、シャンと立っている軍人の人たちを横切りながら入るというのはなかなかない経験で面白かった。

ラドゥスタンカ国立劇場“Games, words, crickets…” @ファブリカ・デ・クルトラ(屋内)

上演前の様子。階段から鑑賞

 シルヴィウ・プルカレーテ演出の作品。演劇祭の総監督のキリアックが主役として出演していた。元々詩をもとにした作品のようで、内容は理解することを諦め、演出を楽しんだ。真っ白な衣装を着た俳優たちが板付きした、幻想的な雰囲気の中で始まり、婦人が真っ白なマルチーズを連れてトコトコ下手の椅子に座り、自撮りをするのが不思議で印象的だった。その後は、場面ごとに基調とする色が変わり、白、黄色や緑、青、ピンクと美しい照明で、季節や時間を表現しているのだろうかという感じだった。人生の回想的な一人語りの形式ではあるのだが、タンバリンと紙袋を持った客席から現れる男や、舞台中央がレーンのようになっていてそこにグラスを積み上げることや、マルチーズ、不思議な踊り、スイカ、変なお面、キリアックと同じ顔をした等身大人形2体など色々視覚的に面白いことが連続して起こり、飽きずに観ることができた。

company off “color wheels” @ニコラエ・バルチェスク通り(屋外)

光る車輪

 フランスのカンパニーの野外パフォーマンス。すごく大きな車輪がLEDの電飾で光りながら通りを動いていく。花火や爆発もあり、他のボランティアがエキストラのパフォーマーとして参加していることもあり、見るのはとても楽しかった。何度もその頑張る他のボランティアを追いかけて、みんなで先回りして移動したのはいい思い出だ。

 Teatr im. Stefana Jaracza w Olsztynie “Easy Things“ @Sala studio (屋内)

 ポーランドのカンパニーで女性の2人芝居。真っ暗な中始まって、2人は大きな時代物のドレスを身につけている。台詞はポーランド語で、字幕も追いきれていない部分もあるのだが、全体を通してメタシアター的で、舞台上の今ここにある身体の存在であったり、演じているということを強調しており、2人の今までの女優としてのキャリアというのが語られる。後半に行くと、2人の胸がデカく、ストリップをして、脱がされることになった、胸がでかい役ばかり演じてきたという話になり、裸でチキンを食って終了した。最後のそのチキンを食べるシーンは字幕にインプロとだけ出て、翻訳が出なかったので理解はできなかったが、理解できる人は笑っていた。内容はかなりフェミニズム的で、女優の身体を扱っていて、真面目でありながら、コミカルな部分もあり、翻訳がもっと理解できればもっと面白く楽しめたのだろうという悔しさが少しある。

 

11. ラドゥスタンカ国立劇場 『ロミオとジュリエット@TNRS (屋内)

上演前の舞台の様子

 アンドリー・ゾルダックの演出作品。ユスティが出演するということもあり、観ることをとても楽しみにしていた。宣伝映像やInstagramの投稿を見てもユスティが何を演じているか分からなかったのだが、結局見終わっても分からなかったのが最大の謎だ。ロミオの友人として出てくるので、マキューシオかベンヴォーリオだと思ったら、キャピュレット側でもたまに出てくるし、かと思えば急に出てきた人がティボルトに殺されて倒れるし、二幕目では大体真っ黒な服だったので、死の象徴だと思うのだが…。上演は舞台奥が角になって2枚のパネルが広がるような形になっており両側に扉が付けられていてそこから出演者が登場してくる。舞台の上手下手には写真スタジオのようなセットが組まれていて、本当に2回だけロミオと何役かわからないユスティの顔のアップの映像が流れた。

 

 ロック版というか、楽曲で最近の曲が大音量でガンガンに流されながら進んでいき、たまに出演者も歌うことがある。悲しいシーンで楽しい曲が流れる対位法的な使い方や、結婚した一番幸せな場面に流れていた音楽が、最後の一番悲しい死んでしまう場面で流れるというような教科書通りの使い方もあって、音楽が良かった。とにかく若い俳優がたくさん出演して、すぐに脱いで、舞台を駆け回りながら進んでいく。悲劇だとか、二つの敵対する家族だとか、争いだとかはほとんど描かれず、とにかく若さ、若い2人そしてその友人を含む人たちの関係性、激しい恋愛にフォーカスを当てられているのだと思った。深刻ではない分、「結婚」「あなたは夫」「あなたは妻」と何度も繰り返し宣言するパフォーマティブな行為が、逆にその結婚が内実を伴っていない、若さによる、勢いによるものであるという危なっかしい印象を強めていると思った。出演者がそれぞれ癖がある感じでキャラクターを演じていて、キャピュレット卿はすごく自信なさげな性格で、ティボルトと関係を持っているのではないかということが示唆される(普通はティボルトは夫人と関係を持っていると演出されることが多い)し、キャピュレット夫人は欲求不満なのかずっと髪を振り乱しながら性器のあたりを手でいじっているし、ティボルトは有害な男らしさを強調して筋肉を見せてきたかと思えば、ずっと猫の鳴き声を繰り返しながら喋るし、神父はエアで楽器を演奏しながら笑い続けるし、乳母は若くてめちゃくちゃ気が強い感じだ。ティボルトとマキューシオ、ベンヴォーリオの喧嘩もテニスラケットをティボルトが投げて、他2人が取りに行くという動きの連続で表現されていたり、他にもプロローグからなんだか繰り返しの動作が多く、どういう演出なのだろうと疑問に感じた。他にもあまり見たことない演出、解釈ばかりで書き足りないが、長くなってしまいそうなのでとりあえずここで締めておく。とにかくめちゃくちゃ刺激的で面白い上演だった。

(追記)ユスティに直接あれは何役を演じていたのかということを確認することが出来た。最初は、ロミオ役として稽古を始めたのに、なんかやっぱり違う役にしようということになって不満だったが、最終的に最初はロミオの友人で、マキューシオであり、ベンヴォーリオであり、死の象徴であり、自分にしかできない役になって満足しているということだった。

何だかインスタに写真を載せるのもツイッターで公に言うのも気が引けるのでここに書き残そうと思うのだが、パーティーでこの質問をした後、写真撮影(今年二回目)をお願いしたら、なぜかリクエストしていないのに自然にお姫様抱っこをしてくれて、それ以降、思い出してはにやついてしまう。今年は日本のゲストもたくさんいるし、他の日本のボランティアやアーティストもユスティと仲良くなっていて、それを傍目にゲストをアテンドしたりしていて、私はもう仕事に打ち込もうというか、遠くで見守ろうというマインドになっていた。やっぱり推しと思ってしまうと正気を保てなくなるし、色々支障も出てくるし、これからユスティはビックな俳優になっていくと思うし、距離を保って普通にしようと思っていたのだが…なんて罪深い…沼深い…。

12.シビウバレエ団 ”Bolero and name of the joy” @イオン・ベソイユ(屋内)

 シビウのバレエ団の、ボレロをはじめとしたバレエのパフォーマンス。日本人のダンサーの方が何人か所属されているようだった。ちょっと心配事があったこともあり集中できず、振りが揃っておらず、バラバラしているように感じてしまった。

 (追記)いくつか同じ会場で作品を観たり、他の人の感想を聞いて感じたのは、ダンサーの力量以外にも、会場や明るすぎる照明にも原因があるかもしれない。ハーバルマンという野外で後日されたパフォーマンスは評判が良かった。

13.The Revolution Orchestra “Moods” @ファブリカ・デ・クルトラ(屋内)

 楽器の演奏とダンス的なパフォーマンス、プロジェクションマッピング的な映像が融合した作品。タイトルがつけられた9つくらいの場面に分かれていて、場面ごとに楽曲や映像、パフォーマーの配置が変わる。前半まではただ綺麗だな、幻想的だな、という感じだったのだが、最後のシーンで字幕が意思を持ち喋り出したようになって、コミカルな部分もあった。例えば、「どう思った?」「なんか分かりにくかったでしょ?」とか「この前はモーツァルトの『魔笛』を翻訳してきました」とか、パフォーマーが歌を歌い出すと「これは翻訳しません」「この歌とこっちの字幕、今こっちを読んでいるということは字幕の方にあなたは集中していますね」とかで静かで美しい舞台とのギャップが面白かった。最後は文字の情報に捉えられている社会であるということを指摘して、字幕の画面が壊れ?斜めに掛かるようになり、文字が大量にマッピングされて、舞台奥から光が放たれて、演奏が少しあってフィナーレ。感動的だった。