バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

シビウ国際演劇祭2024の演目をチェックしてみる

シビウ国際演劇祭(Festivalul Internațional de Teatru de la Sibiu 、略してFITS)は、今年31周年目を迎えるルーマニア中部のシビウで開催される演劇祭だ。

今年のテーマは、「Friendship」

プログラムは、4/18日の10時(現地時間)に発表され、現在既にHPから閲覧することができる。

今年の特徴として、毎年イスラエルのバットシェバ、キブツ、ヴェルティゴという有名ダンスカンパニーが持ち回りで来ており、今年はバットシェバの番だったが、日本や最近ニュースになったフランスと同じく、シビウでの上演も見送られた。演劇祭側は招聘するために交渉を続けていたようなので、政治的な信条というよりは安全上の理由から諦めたという方が近そうだ。

また、小広場の近くにあるハビトゥスという地下のスペースでは、今までもVRや写真の展示を行っていたが、今回は更にVRに力を入れているようだ。Gigi Căciuleanuというルーマニアの作家の作品に加えて、郭文泰(クレイグ・キンテロ)の2作品が鑑賞できる。

では、演劇祭全体の説明は去年のブログを見ていただくことにして、具体的な今年の演目を見ていきたい。(なお、発表された直後に書いており、まだまだサイトに反映されていない作品があるようなので、適宜追記していきたい)

ハイライトをおさえる

去年までと比べてサイトがリニューアルし、ハイライトの演目が分かりやすくなった。そこに挙げられている作品は、今年Walk of Fame(功績を称えて歩道に名前を飾るもの)に登録される演劇人の作品や、話題の作品が多い。具体的にいくつか面白そうなものを挙げていきたい。

★6/21 18:00-20:20, 6/22 16:00-18:20
ウカシュ・トゥファルコフスキ演出『The Employees 』
STUDIO theatregallery(ポーランド
@ Fabrica de Cultură – UniCredit - Lulu Hall

ウカシュ・トゥファルコフスキは、フェスティバル・トーキョー2015で日本に招聘されたこともある演出家。『The Employees』は、デンマークの作家Olga Ravnが2018年に出版した、同名のディストピアSF小説を基にした作品のよう。映像なども用いたパフォーマンスで、スタイリッシュな雰囲気(少しチェルフィッチュっぽい…?)

 

★6/21 19:00-20:30, 6/22 17:00-18:30
アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル振付『EXIT ABOVE after the tempest』
ローザス(ベルギー)
@"Ion Besoiu" Cultural Centre 

ゴシップ的な言及は良くないかもしれないが、ビヨンセの盗作騒ぎでも話題になった、言わずとしれたローザスである。この作品は、去年ベルギーで初演されたもので、ダンスや西洋のポップ音楽のルーツを探るようなテーマらしい。

振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは、今年Walk of Fameに登録される。芸術監督のキリアックによるとチケットは売り切れ必須なので、早めに入手しておいた方がいいのかもしれない…(去年もIon Besoiuはかなりカツカツで入るのが難しい公演がいくつかあった)

 

★6/23 21:00-22:20, 6/24 18:00-19:20
ラファエラ・カラスコ振付『Nocturna. Architecture of Insomnia』
ラファエラ・カラスコ・カンパニー(スペイン)
@ Fabrica de Cultură - UniCredit - Eugenio Barba Hall    

この演劇祭では、毎年フラメンコの演目が豊富に上演される。去年はマリア・パヘスが圧巻の踊りを魅せたが、今年も有名ダンサーであるラファエラ・カラスコがやって来るらしい。その他にもフラメンコ作品はBarcelona Flamenco Balletの『カルメン』や、Hillel Koganの『THISISPAIN』の3作品の上演が予定されている。

 

★6/24 20:00-21:10, 6/25 18:00-19:10
蔡博丞振付『ALICE』
B.DANCE(台湾)
@"Ion Besoiu" Cultural Centre 

タイトルにある通り、ルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』を基にした作品。台湾のダンサー、振付家でヨーロッパでも注目を集めている蔡博丞とスイスのKathleen McNurneyが主宰するTanz Luzerner Theaterがコラボレーションして作った作品らしい。オートクチュールの衣装が魅力的だが、長い触角をもった虫みたいなやつはうさぎということだろうか?台湾の伝統と現代の融合のようなコンセプトをもつダンスカンパニーというと、有名どころの雲門舞集しか知らないので、興味を惹かれる。


★6/26 19:00-20:10, 6/27 20:00-21:10, 6/28 16:00-17:10
ティモフェイ・クリャービン演出「In the Solitude of Cotton Fields / John Malkovich - Ingeborga Dapkunaite」
ラトビア、ドイツ、アメリ
@Fabrica de Cultură - UniCredit - Faust Hall    

ベルナール=マリ・コルテス作『綿畑の孤独のなかで』の上演。演出家は、2019年に東京芸術劇場で全編ロシア手話の『三人姉妹』を上演し、現在反戦を表明してロシアからドイツに活動拠点を移しているティモフェイ・クリャービン。

俳優がリトアニア出身のインゲボルガ・ダクネイトと、ハリウッドでも活躍するジョン・マルコヴィッチ(!?)で、後者が今回Walk of Fameに登録される。不思議とグローバルな座組で面白そうだが、戯曲を読んで行った方が理解しやすいかもしれない。

 

★6/28 20:00-21:50, 6/29 16:0-17:50
スザンネ・ケネディANGELA (a strange loop) 』
Ultraworld Productions(ドイツ)
@ Fabrica de Cultură – UniCredit - Lulu Hall

この作品は、同名のミュージカルではなく、日本にも紹介されているスザンネ・ケネディが演出を務める作品。相馬千秋(さん)がディレクターを務めた昨年の世界演劇祭で上演され、アヴィニヨンなどのその他の演劇祭でも上演された。日本語でもいくつか作品についての情報が出てくるため、引用する。

スザンネ・ケネディマルクス・ゼルクによるまったく新しいマルチメディア・ステージ・プロダクションは、病と回復、起床と睡眠、出産と誕生、老化と死という日常的な状況の中でANGELAの旅に同行する。ANGELAは何百万もの経験で構成されており、その多くは他人の話から来ている。無限のループの中で仮想と現実はぼやけていき、一方でANGELAは物語を繰り返して自己を構築し、それをまとめようとする。その理解を深めるためにANGELAをどんどん拡大していくとどうなるでしょうか?

ー芸術公社公式ツイッターより引用httpy://x.com/ArtsCommonsT/status/1675166786692730881

 

★6/28 22:00-23:40, 6/29 20:00-21:40
テオドロス・テルゾプロス演出『ゴドーを待ちながら』byベケット
Emilia Romagna Teatro ERT / Teatro Nazionale(イタリア)
@”Radu Stanca” National Theatre - Big Hall  

シアター・オリンピックスの創始者の一人で、日本では鈴木忠志と親交の深い、ギリシャ人演出家テオドロス・テルゾプロスによる、ベケット作『ゴドーを待ちながら』。イタリアの劇団とコラボレーションしての上演で、俳優が全員頭から血を流しているのが気になってしまう…。

ちなみに、前回は『ロミオとジュリエット』の上演が非常に多かったが、今回はこの『ゴドー』の上演が多いようで、Ana Monro & Cirkusfera(セルビア)の『40-60』という野外作品も同じくゴドーを基にしている。(3作品ゴドーがあると言っていたが現時点ではもう一作品見つけられなかった。)

以上詳しく挙げた以外にも、イタリアの俳優・脚本・演出家のピッポ・デルボノによる『Awaikening』や、ハリウッド俳優・映画監督のティム・ロビンスと彼の劇団「アクターズ・ギャング」による『Topsy Turvy』、エルヴェ・コウビのダンス作品『SOL INVICTUS』等々ハイライト作品は盛りだくさんだ。

国立ラドゥ・スタンカ劇場(TNRS)の作品を観よう

地元の人は見慣れているかもしれないが、シルヴィウ・プルカレーテの演出作品や、オフェリア・ポピの出演作品を観たい方には、TNRSによる上演がおすすめだ。

今年上演されるシルヴィウ・プルカレーテ作品は、去年と内容もスケジュール感も変わらない。そのため詳しくは割愛するが、6/21『スカーレット・プリンセス』、巨大キリアック人形が出てくる、6/28『Games, words, crickets…』、6/29・6/30『ファウスト』がどれも廃工場を改築した劇場Fabrica de Culturăで上演される。

その他にもほぼ毎日上演されているが、特に私が気になる上演を2つ挙げたい。

★6/25 16:00-18:30
Dumitru Acriș演出 『かもめ』byチェーホフ
@ Fabrica de Cultură – UniCredit - Lulu Hall   

一昨年は『三人姉妹』、昨年は『桜の園』とオフェリア・ポピが主演を務めるチェーホフ作品が毎年のレパートリーとして上演されており、今回は『かもめ』だ。

注目すべきは、『スカーレット・プリンセス』でW主演の桜姫を演じているユスティニアン・トゥルクがトレープレフを演じているということで、アルカジーナを演じるポピとの親子役としての掛け合いに注目したい。

また、今まではTNRSの劇場で上演されていたが、今回はFabrica de Culturăの変形舞台で上演するようで、そこも興味が惹かれるポイントだ。

ただ、このチェーホフ上演を手掛けている、モルドバの演出家Dumitru Acrișは、とてつもなく普段の振る舞いや稽古場の進め方が前時代的な演出家らしく、評判があまり良くないので注意したい…。

 

★6/24 19:00-20:50
Bobi Pricop 演出『誤解』by アルベール・カミュ
@”Radu Stanca” National Theatre - Big Hall   

二年前に観た同演出家のハロルド・ピンター作『背信』が強く印象に残っており、気になってしまう。印象と言っても、俳優が全員人形振りで演技する、しかもボイスオーバーで全く喋らないといった、あまり適していると思えない演出で長時間上演していて、辛かったという悪い印象だが…。

Bobi Pricopは40歳前にしてクライオヴァの国立劇場で芸術監督を務めており、シビウでもほぼ毎年上演している中堅演出家だ。前回観た作品は面白くなかったが、とにかく美術と衣装は洗練されており、宣伝は魅力的に映る。今回はブカレストのオデオン劇場とイワン・ヴィリパエフ作の『Disquiet』も上演するようなので、どちらかは観劇して、あの上演が良くなかっただけなのか、そもそもそういうスタイルの演出家なのか確認したい。

日本から招聘された作品は?

去年は、30周年を記念して日本からの招へい作品が非常に多かったが、現在明らかになっている限り今年は2団体で、韓国、台湾、中国などの団体とバランスよく呼ばれている印象がある。

 

★6/21 21:00-22:50, 16:00-17:50
フライングシアター自由劇場『あの夏至の晩 生き残りのホモサピエンスは終わらない夢を見た』
@ Studio Hall TNRS

 

★6/23 22:00-23:10, 16:00-17:10
鈴木ユキオ『堆積 -Accumulations』
@Studio Hall TNRS  

 

どちらの公演もStudio Hall TNRSというIon Besoiuの裏手にある小劇場を使うようだ。

ちなみに徒歩二分くらいの場所にあるDi Gianfrancoというイタリアンレストランはとても美味しいので、案内するのに良さそう…。

 

さいごに

ブログに書くとなると取捨選択することになってしまうが、もちろん様々な作品が上演されており色々な楽しみ方がある。

今回紹介できなかったカテゴリーで言うと、野外のパフォーマンスは大通りやTNRS近くのハーバルマンマーケットだけでなくすごく小さい公園で散発的に行われていて、それを追いかけていくのも楽しい。

また、シビウ中心部のほぼすべてと言ってもいい程の教会で、音楽を中心とした上演が行われる。中には現地に住んでいても、普段はあまり入ることができない教会もある様で、演劇祭ならではの珍しい体験ができる。

このブログではあまり登場していないが、GONG Theaterという普段は子供向けの作品を上演している小劇場も、非常に雰囲気が良く、落ち着く劇場だ。

かなりシビウに行く人向けのブログになってしまったが、目玉作品の多くはオンラインで配信されるので、世界中から見ることが出来る。かなり安価で観れるので、興味のある方は是非!

演劇祭が始まる前の Piața Mare