バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

30周年のシビウ国際演劇祭5~8日目(6/27~6/30)

7日、8日目はカンパニーアテンドの仕事がありほとんど作品は観れなかったので、四日間をまとめてブログに残したいと思う。

 

5日目

Tiyatro BeReZe Macbeth / A Nightmare For Two” @sala Studio

トルコの劇団によるシェークスピア原作の『マクベス』の上演。マクベスマクベス夫人の二人芝居形式で、中心に置かれたベッドや観葉植物、コーヒーマシーンといった舞台美術、部屋着の衣装を用いて、日常的な家庭の風景の中でマクベスの話が進んで行く。物語は省略もありつつ基本的にマクベスのストーリーなのだが、その中に、コーヒーを淹れる、観葉植物に水をやる、不眠症などの要素が普通の家庭の話としてオーバーラップしていた。特に役者のスキルの高さがとてつもなく、マクベス役の俳優は、演技、ボイスパーカッション、パントマイム、エアの剣技のどれもが非常に上手く、リアルに戦っているように見えた。マクベスは「悲劇」とされているが、むしろ恐妻家の家庭の話にし、パントマイムなどと合わせることで「喜劇」的に上演されていた。

 

⑮北京舞踊学院“The Dance of China” @Thalia Hall

中国の最大最高のダンサー養成機関である北京舞踊学院による中国の伝統的な踊りの上演。時間の都合上最後まで観れなかったが、プロと遜色ないレベルというか、学生とは思えない技術の高さと、揃った群舞が美しく、とても良かった。水袖舞と呼ばれるような長い袖での踊りや、傘を使った踊り、カップルの踊り、男性だけの群舞など、様々なバラエティに富むダンスを観ることが出来たのも良かった。

 

Burgtheater “Dorian Gray” @ラドゥスタンカ国立劇場

youtu.be

オーストリアの劇団による、オスカー・ワイルド原作『ドリアン・グレイの肖像』のマルチメディア上演。出演者はドリアン・グレイを演じる一人だけで、後は舞台上のジャングルジムのようなセットに大量につけられた画面を使いながら、他の登場人物は全員映像の中でのみ登場して、作品は進んで行く。ドリアン・グレイ役の人は最初に金箔を顔につけていて、段々それが取れていくというのをライブカメラで映して、醜くなっていく様子を表現していた。字幕が非常に読みづらいという問題はあったが、今まで観てきた演劇の中ではかなり映像を効果的かつ面白く使えているなと思ったし、肖像画という昔のメディアを扱った作品が、現在上演される際には新しいテレビや映像のメディアになるというのは内容的にも合っていると感じた。

 

Theater ANU “WONDER WONDER – In the Land of My Childhood”@ビックスクエア

キャンドルの灯ったビックスクエア

ドイツのカンパニーによる野外の上演で、去年に引き続き参加している。ビックスクエア一杯にキャンドルが置かれ、幻想的な美しい風景が広がった。去年はちらっと見るだけだったので知らなかったが、キャンドルが置かれている内部にも入ることが出来、そこでは紙芝居、影絵芝居、万華鏡等々の出し物が点々と行われていて、見世物小屋的な雰囲気もあった。ただ、去年からキャンドルの数は倍の8000個になったらしく、朝から晩までキャンドルの交換や火の点灯等をした地元のボランティアの友達によると、もう一生シビウに足を踏み入れないでほしいと思うくらい大変だったらしい。

 

6日目

⑱マリア・パヘス舞踊団 “From Scheherezade”

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担当カンパニーが来てディナーの予定があったので観ることを諦めていたが、その内の数人も観たいと希望したためにアテンドとして観劇出来た作品。スペインの有名なフラメンコダンサーマリア・パヘスが率いるフラメンコカンパニーの上演。とにかくダンサーたちは全員女性で、しかもめちゃくちゃ力強く、激しく、勢いがあって、こちらもエネルギーを貰うことが出来た。物語の筋は無いと思うが、タイトル通り『千夜一夜物語』を題材にしていて、砂漠や夜、月といったモチーフが用いられていた。後半にかけてだんだん伝統的な、フラメンコと聞いてイメージする、人が座って囲んで一人が踊るという形式や扇を使った踊りが出てきて、最後少しだけ間延びした感じもあった。が、全体的にはレベルの高い本物のフラメンコを始めて観ることが出来た感動が強かった。

 

印象派NÉO『ピノキオの偉烈』@ファブリカ・デ・クルトラ

日本の夏木マリが演出・出演し、日本でも土屋太鳳が出演して上演されていた公演。新しいジャンルを作りたいとか、新しい能ですという風にも紹介していたが、既存のジャンルに当てはめるとすると、私は「フィジカル・シアター」だと思う。

基本的に、ピノキオの話を基にしたダンス公演で、ピノキオを文楽人形のようにしたり、背景を松にして能楽要素も取り入れたりして日本の伝統文化を押し出す場面と、コンテンポラリーダンス的な場面があり、色々なコンセプトの異なる場面が次々展開していく。ダンサーの人達はコブドレスのような衣装や不思議な衣装を身に着けて、童話の世界観を表現しようとしており、出ずっぱりで大変だなと思った。全体的に視覚的な楽しみはあるが、特に内容はなく、しかも要素を詰め込み過ぎで長く、洗練されていない印象も受けた。

 

7日目

夜から仕込みで何も観れなかった。オフェリア・ポピも出演する『MASS』という作品が家族に関わる物語でめちゃくちゃ評判が良かったので見逃したのが悔やまれる。

 

8日目

⑳NTゲント『Familie』@ファブリカ・デ・クルトラ

開演前の舞台の様子。

担当カンパニーの二回公演があったので、もう観れないと覚悟していたのだが、間の長すぎる休憩時間がフリーになり、奇跡的に見ることが出来た。ミロ・ラウ演出の作品で、2007年にカレーで実際に起こった家族の集団自殺の事件を基に、実際の家族の俳優夫婦とその10代の娘二人(犬二匹も)をキャスティングして、最後の夜を再現、追体験するという上演だ。舞台は本当にそのまま家が再現されたようなセットで、第四の壁どころか普通に家の柱や壁があって直接観客からは見にくい場面もある。舞台中に置かれたカメラでそのような家族の会話は撮られ、流されており、まさに他人の家をのぞき見しているような鑑賞体験だった。この撮影の画角も絶妙でとても美しい。

 特に特別なことは起こらず、姉妹が英語の宿題をやって、父親がご飯を作って、最後の晩餐をして、服を着替えて、最後には首を吊るのだが、所々にもうこの後自殺するという覚悟を決めていると伝わる台詞があったり、実際の家族だからこそあるホームビデオなども流れたりして、実際の事件とこの実在の家族がオーバーラップする。リアリズムを超えたリアルという感じだった。翻訳や台詞の一つ一つも分かりやすく(I like~と好きなものを並べる台詞や、いつか人は死ぬのだからというような厭世的な台詞)、どの瞬間も無駄がなく、父親と娘の関係などくすっと笑える部分もあって、この演劇祭で観た作品で今のところ一番面白かった。