バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

要素が多めの香港に関するコメディーPapergang Theatre ‘A Bouffon Play About Hong Kong’ ー

Papergang Theatre ‘A Bouffon Play About Hong Kong’ HOMEシアター

 PUSHフェスティバルという劇場の催しの一部の公演。Isabella Leung作・演出で、2021年にはThe Women's Prize for Playwritingの最終候補作に残ったらしい。タイトル通り香港にまつわる話で、上演前には政治的な話題があるため絶対に舞台の録画をするなという注意が流れた(ジョークかもしれない)。客席は私がイギリスで今まで観劇してきた中では英国ナショナルバレエの『白鳥の湖』を抜かして一番アジア系の割合が多かった。

homemcr.org

 

 タイトル通り香港にまつわる話であまり笑えないコメディなのだが、中国大陸の思想を持った師匠のような人と女性の対話、広東語を教える先生、家族の風景など、それぞれの場面が非直線的に融合して構成されている。画面に文字が出たり、歌を歌ったり、キャストが道化的であったり、中国の題材であるのはかなりブレヒト的だと感じた。特徴的なのは、記号論的に分析できそうな美術の多さで、鏡、鳥かご、洋服の下にチャイニーズドレスを着た女性、目の光る豚、コムデギャルソンのコブドレスのような衣装などなど盛りだくさんだ。やはり言葉に表すのを避けながら、香港の人々の中国政府に対する抵抗の文脈を示すという意図がそこには表れている気がした。

 

 友人と話していて面白いなと思った要素を抜粋して紹介する。例えば、広東語を教える先生は、観客参加型の場面で、最初の方は非常に楽しそうであるのだが、段々スマホを気にするようになる。そこで、スーパーのカートのようなものを持って登場するのだが、そのカートの中にある豚の頭の目が真っ赤に光る。その後、再登場した先生は、広東語を喋ることができなくなっており、更に口に黒いテープを貼られて、背中に先ほどの豚の目のように赤く光る棘のようなものがいくつかついていることが示される。これは民族同化で独自の言葉が奪われるということ、また豚の赤い目や、背中の赤く光る棘は監視されているという状況(=総監視社会)を表していると考えられる。関係ないが、この先生はおそらく作・演出のIsabella Leungが役者としても演じているため、他の演者と交わらずに一人で稽古できそうな作りになっていた。

 

 更に、洋服の下にチャイナドレスを着た女性は、おそらく三浦穂海という日本の方が演じられていたのだが、おそらく香港それ自体の状況と、更に具体的な、中国政府の傀儡だと考えられている現首長、林鄭月娥を表していると考えられる。彼女は最初はその洋服を着た姿で登場するが、鏡を見つめて、ナルシストな、自尊心の強いような様子だ。その後チャイナドレス姿になり、中国を表していると思われる大きな男の靴をなめ、性的にも服従する。しかし、最後の場面は、彼女のスカートの下から人々が登場し(=香港の人民を表している?)、鞭をもった男からその人民を守ろうとするような姿が描かれていたので、多少の希望をにじませた結末のようでもあった。ちなみに、そこまで意識をしているかどうかは不明だが、この女性が日本人の役者であるという事を考えると、新しい意味を読み取ることができてしまう恐れがある。

 

 全体的には、広東語や中国語が分かったらもっと理解が深まったのだろうなと思うような場面もあり、中国語のできる友人が羨ましかった(そこで急にCourseraで中国語の勉強を始める)。ただ、後半の場面には香港に越してくる中国人のシーンがあるのだが、一番最初の広東語の授業で「你好」が広東語では「ネイホウ」であると学んだおかげで、この人は香港の人じゃないという事が非中国語話者にもはっきりと分かってその伏線は面白かった。そして、今まで全然書いてこなかったが、上演地であるイギリスとの植民地としての関係も描かれている。ただ、かなり美化して描いている節があり、一緒に行った中国出身の友達は、そのイギリスを持ち上げて中国を徹底的に悪者にするような姿勢には疑問を呈していた。

 

 ログインしないと見れないかもしれないが、ニューキャッスルでの試演会の様子、上演時にはかなりブラッシュアップされて変化していた。

vimeo.com