バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

30周年のシビウ国際演劇祭 一日目・二日目

 今年もトレーニング期間があっという間に終わり、忙しくしていたら演劇祭が始まってしまった。今年も、まとめのブログを書く前にとりあえず二日ずつくらいで観劇記録のブログを残していこうと思う。

大通りの入り口にかけられた横断幕

 今年もまた再参加して思うのは、去年出会った人たちに再会することがとてつもなく嬉しいということだ。元々、ぐいぐいコミュニケーションをとれるわけではないので、人数も多くないが、去年私と同じ着物を着たローカルボランティアや、去年のホストしスター(去年は少し振り回されたる部分もあった?が、今年はより仲良くなれた気がする)とそのお母さん、去年同じカンパニー担当した女優のお姉様、去年そのお姉様と担当した劇団の少し高田純次味のあるプロデューサーなどなど、まだ二日目なのに劇場内のクラブや道端でばったり遭遇することが多い。その再会時のテンションの高まりは、あまり普段の生活では味わえない特別なものだと思った。

 

【仕事について】

 今年は、ある二つの日本のインドアカンパニーのアテンド担当になった。去年初めてで、しかも全部部署やコーディネーターの異なる三つを担当していたことを考えると余裕がありそうだ。

 最初の担当のカンパニーの上演先は、普段子供向けの人形劇を上演しているゴングシアターだった。去年は観客として観に行くだけだったので、赤い席がふかふかでサイズもすごくちょうどよくて雰囲気のいい劇場という印象だったが、今回は劇場の責任者の方や照明担当のテクニカルの方とも関わって、みんないい人ばかりで更に劇場への愛が高まった。他の日本のゴングシアターで上演するカンパニーの担当ではないのがスケジュールの都合とはいえ少し残念だが、またいつかここに戻って来たい。

 仕事の内容では、去年はイスラエルルーマニアのカンパニーに入ったこともあって、あまり翻訳をするという機会が無かったのだが、今回はその機会があったのが面白かった。交換留学したくせにまだまだ喋り慣れておらずめちゃくちゃな英語を喋ることもあるが、結構パッションとか工夫で伝わると実感できたし、どう表現するのか難しい状況で伝えられたときは嬉しかった。(東京芸術祭アートファームのアートトランスレーターの方も申し込めばよかった…。)

 

【観劇について】

一日目

①ラドゥスタンカ国立劇場 『スカーレット・プリンセス』 @ファブリカ・デ・クルトラ(屋内)

開演前の舞台の様子。近い!!

 シルヴィウ・プルカレーテ演出の作品で、去年日本でも東京芸術劇場で上演された。私はシビウでしか観たことが無いので比較できないが、日本でも観た方が劇場の雰囲気が違うと全然受ける印象が違うと言っていて、この暑い、密集した、カタカタと音が鳴る盆で上演される雰囲気が芝居小屋という感じで魅力的なのだと思う。二重の盆で回る所や歌、音楽のスペクタクルが見もので、最後のフィナーレの曲がまだ頭に残っている。物語は、歌舞伎でも観ているが、観れば観る程、最初に「都鳥の一巻」を盗んだというところや、悪五郎、長浦、残月、お十等の周辺人物の関係性への理解が深まっていくなと思った。あとはもう主役のオフェリア・ポピのコミカルな演技と、ユスティニアン・トュルクの身体能力の高さが素晴らしいと思う。運よくめちゃくちゃ近い席に座れたので、キャストと距離が近すぎて緊張した。

 

二日目

ConTakt “Foley” @ハーバルマン・マーケット(屋外)

上演中の様子。子供の観客が多い。

 オーストリア、ドイツ、フランスのヨーロッパ系の人達が集まったアクロバットなサーカスのパフォーマンス。パフォーマンスは、人の上に乗るとか、人の上でバランスをとるといった定番の動きも多いが、格闘ゲームを模したようなコミカルな場面と静寂になる場面と色々な場面が交互にあって飽きさせない工夫がされていた。一番気になったのは、音楽で、普通に音源をかけるのではなく、DJをやっている人がいて、ラップをしたり、ミキシングをしたり、フルートを吹いたり、はたまたその人もアクロバットをしていた。他のアクロバットをしていた人たちもサックスを吹いていたので、マルチプレーヤーが多いカンパニーなのだろうか。そのDJセットから伸びる赤いめちゃくちゃ長いコードのマイクを紐のように使ったパフォーマンスや観客の方に喋らせる場面も面白かった。

 

Circus Baobab “Yé, L'eau!(水) @イオン・ベソイユ(屋内)

上演前の舞台。なにも伝わらないかもしれないが…。

西アフリカのギニアのアクロバットカンパニーの作品。アクロバットのレベルが想像以上に高く、回るわ飛ぶわ、身体は柔らかいわで観たことのない動きの連続で、すごすぎて本当に言葉で形容できるものではなかった。

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テーマもしっかりしていて、気候変動に関わるものだった。舞台には両脇に水の入ったボトルが置いてあり、前面には空のペットボトルが散乱している。舞台奥には蛍光灯のようなライトもついていて、それ以外はほとんど特別な装置や照明効果は使われない。そして、そこで繰り広げられるアクロバットやマイム的な表現の中で、ごみ問題と、気候変動による水不足、そしてその限られた資源の奪い合い、電気不足等々が描かれた。ただアクロバットをするだけでも十分すごいのだが、私はそういった社会のテーマと有機的に結びついて、考えさせるようになっているほうが好みなのでよかった。後半では、観客席に降りて来る場面もあり、観客に水を渡して(貰えた)、キャストは客席にいるままで、舞台は空の状態になって終わった。このような終わり方も、舞台と客席を隔てる第四の壁を破って、この問題はあなたたち自身の問題ですよということを伝えているようだった。

 

Gratte Ciel “Rouge” @ビックスクエア(屋外)

フィナーレの場面

 これも、サーカスで、ビックスクエアという町の中心部にクレーンで回る装置を吊って、赤い布を使ったエアリエル?空中アクロバットをしていた。その一つ前に観たアクロバットが大人数で連続で超上級の技が繰り返されるものであったため、前半のソロのパフォーマンスは少し物足りなく感じてしまった。最後、全員が同時に、メリーゴーランドのようになって回る人と、棒の上に立ってぶらぶらする人と、エアリエルのような布につられる人に分かれて登場し、赤い紙吹雪が舞い、火花が散る場面はスペクタクルでとても良かった。

 

Mongolian National University of Arts and Culture “Chinggis Khan” @CABAS(屋内)

 モンゴルの国立大学の演劇科の学生による、チンギス・ハーンがどうやって偉大な指導者になったのかという歴史を基にした、フィジカルシアターの上演。学生とするとパフォーマンスのレベルは高く、今まで観たことのなかったモンゴルの(多分)伝統的なダンスを楽しむことができた。一番すごいと思ったのは、馬に乗るマイムで、チンギス役の人が足をクロスして動くのだが、本当に馬に乗っているみたいで非常に上手かった。また、ライバル役の人が友好的な雰囲気を見せてチンギスをだまし討ちする場面などはとても面白かった。ただ、衣装のテカリや安い間接照明を使ったみたいな宝玉的アイテムがちょっと安っぽく、演技も歴史がテーマなのでしょうがない部分もあると思うが仰々しすぎるかなと感じる部分もあった。また、モンゴルの歴史の話なので、英語ではなくモンゴル語といった彼らの言語で演じた方が作品のテーマには合っているのではないかと思った。