バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

シビウ演劇祭五日目・六日目

五日目は担当している公演が終わり、ラドゥスタンカ劇場の看板女優オフィリア・ポピーの出演する「三人姉妹」を観るかどうするか散々迷った結果、宣伝の写真が面白そうだったダンス作品を観に行くことに決めた。

 

ベルギーCompagnie Mossoux-Bonté ‘Les Arrière-Mondes’

混乱、戦争、疫病の中を生きてきた、昔の贅を尽くした人々が蘇ってくるというようなコンセプト。舞台が幕で6つに区切られており、古ぼけたドレスなどを着たそれぞれのダンサーがそのスペースを使ってゆっくり動き出してくる。このプロローグは昔の亡霊が蘇ってくるというようなもので、かなり能と似ていると感じた。

 

最初は一人一人がそれぞれ動いているのだが、その身体表現はかなり舞踏に近いものだと感じた。服装も性別がよくわからないような装いをしていて、坊主だったり白っぽかったりする場面がかなり多いので、山海塾とかに影響を受けているのではないかと思う。

 

その後、中盤以降にかけては、ダンサー同士が交流するようになる。それはいいのだが、あまりにハプニング的な、驚かせようとするような要素が多く、首なし人間、手がたくさんある表現、急に顔が外れる等、その異形の演出が芸術的に面白いというよりは、お化け屋敷のような感じであまりいいとは思えなかった。

 

終盤、急に激しい音楽と共にヘドバンのような動きをしだして雰囲気がすごい変わったので、このまま終わっていくのかと思っていたら、突如として真顔、静寂に戻るというのを何回か繰り返すところが一番意味がわからなくて面白かった。

 

SWEDENのThe Art Group Fulの‘Baba Karam – through Jamileh and Khordadian The Summer Sneak Peek’

ハーバルマンでの野外パフォーマンスでイランの人気ダンスBaba Karamを利用したドラァグなショー。確かに、女性ダンサーが髭を付けていて、日本でいうROLLYみたいなダンサーが踊っていた。

 

宣伝画像からはもっと現代的でスタイリッシュなダンスを勝手に想像していたが、すごい古めかしいといったら悪いが、懐メロというような感じで、皆で踊ろうという感じで盛り上げる。なぜか最前列いたので私も踊っていた。

 

正直、自分自身が疎いこともあってパフォーマンスだけでは宣伝に書かれてるようなイランのテーマやドラァグさをあまり感じれず、ダンスもものすごい技術の高いものというわけでもないのだが、シビウの人たちは盛り上げるのがとても上手でかなり楽しかった。

 

六日目

カンパニーが昼に帰国したため、その後は暇になり沢山公演を観れた。

 

TrioMix

日本のJTのインターナショナル部門?JTIがGigi Căciuleanu și Fundația Art Productionと協力している公演のようで、VR作品だ。

自分の周囲を男性一人、女性二人のダンサーが回りながら踊るというもので、どこで誰が踊っているか分からないのでくるくる回りながら今踊っている人を探したり、自分の好きな人を追いかけることができる。日本の演劇でも最近VRは話題だが、自分の好きな俳優とかだとかなりいいだろうなと思った。

 

イタリアFormati Sensibili & BeSpectActiveのCONTEXT / SOLO

GONG Theatreの舞台に水が張ってあって、そこでひとりの女性ダンサーが踊る。非常にゆっくり、低い姿勢で舞台上に出てくるのだが、二階席からはほぼ何も見えなかったので、さすがに照明が暗すぎるように思う。舞台奥の画面にも水の流れのような映像が流され、水面も反射して、三角形の舞台装置がきれいに四角の形に見えたりする。舞台装置は美しいのだが、肝心のダンスの方は静寂という感じで、舞台から遠い席で見るとよくわからない部分が多かった。

 

イスラエルVertigo Dance CompanyのPardes

自分が担当していたカンパニーと異なるイスラエルのダンスカンパニー。こちらは手足を伸ばし体をダイナミックに使った群舞と、舞台奥と横にダンサーたちの影が美しく投影されるのが印象的だった。全員の衣装が統一されていて、その他の小道具も少なく舞台上のダンサーの身体に集中させるような雰囲気だった。面白かったのがダンサーの待機場所が舞台の三方にあって、踊っていないダンサーも思い思いに舞台上に待機しているということで、ブレヒト的な何か意図があってのことなのか、でもダンサーは特にこの公演では何かを演じてるわけではなさそうだし…、それとも稽古と本番の境目を曖昧にしているのか…等と考えてしまった。最後列の階段に座ってみていたので見えていないだけかもしれないが、あんまり水も飲んでなさそうだったのでその点は心配になった。

 

ルーマニアTeatrul Național Târgu-MureșのBetrayal

ハロルド・ピンターの「背信」の上演。そもそもこの男同士の友情と、女性と不倫と三角関係という話自体にあまり興味がないのだが、舞台美術が「リーマン・トリロジー」みたいに回るようになっていて宣伝写真が魅力的だったので観劇した。

 

驚いたのは、役者が全員、操り人形で操られているように非常にオーバーに動いて、台詞も全部録音で実際には喋ってはいないことだ。劇が一番新しい時から時を逆行していくという構成になっているため、何かその演出が後半効いてくるのかなと思いきや最後まで何も変わらずそのまま終わってしまって、何の効果を狙ったものなのか全く分からなかった。また、細かい部分ではあるのだが、ジェリーとロバートは親友であるという設定で、実際妻よりも愛しているというような男同士の関係を匂わせる台詞(笑いが起こっていた)もあるのだが、二人の演技では、人形仕掛けだからか全く親密そうには見えず、ロバートが白髪で歳の差がかなりあるように見えてしまった。

更に、終盤でウェイターがでてくるのだが、白いマスクを被ったスケキヨ状態で出てくる。これには、客席からも乾いた笑いが起きていたし、不必要な仮面の使用は個人的に俳優に対して失礼だと感じてしまう。

 

このあと、プルカレーテの「スカーレット・プリンセス」を二列目センターで観劇したのだが、また今日も観るつもりなので次回に回したい。

シビウにせっかくいるのにブログばっかりに時間をかけるのも良くないので、出かけたいと思う。