バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

イギリス・マンチェスターの劇場紹介

 イギリスは劇場文化が盛んであり、平日・休日問わず沢山の公演が上演されている。長い人生の中で、マンチェスターに来て、演劇を観る機会がある人はそう多くはないだろう。しかし、それぞれの劇場に特徴があり、面白さがあり、かなり魅力的だ。観劇に行くといっても、全く馴染みのない人にはどういう劇場や公演があってどのようなチケットを買ったらいいのか何もわからないことが多い。このブログが、マンチェスターに来る機会のある誰かの劇場デビューの一助になればと思う。

ということで、今回は、マンチェスターの7つの劇場とその特徴を紹介したい。

 

パレスシアター(Palace Theatre Manchester)

劇場外観の様子。

1891年開業、席数約2000席の大劇場。マンチェスター大学のあるオックスフォード通りに位置する。主にUKツアーの商業ミュージカル作品が上演される劇場で、ATG(アンバサダーシアターグループ)というウェストエンドやブロードウェイでの演劇作品制作を行う会社の傘下の劇場だ。

上演作品の傾向

前述の通り、UKツアーの商業ミュージカル作品が主に上演される。その中でも新しく話題性のある物や人気作品が上演される場合が多い。11月から2月の間は1作品の大型ミュージカルがロングランで上演される。今年の演目は、「ライオンキング」で、来年は「ハミルトン」になるようだ。それ以外の時期は1週間ほどの期間で様々なミュージカル(例:「ドリーム・ガールズ」、「チャーリーとチョコレート工場」、「王様と私」など)や英国ナショナルバレエ(10月)の上演が行われる。

チケット・特徴・思い出

チケットは最安値が大体£13で、最高値が£100~、またプラスで£3.8の手数料がかかる。ATGのチケットではどこでも当てはまるが、チケットは行けなくなった場合48時間前までなら手数料はかかるが日付を変更してもらうことができる。

大劇場らしく、入場前には荷物検査あり。何度も行っているのに個人的な思い出はあまり無いが、「ボディーガード」の上演が観客の妨害で途中で中止になったのもこの劇場だ。

 オペラハウス(Opera House Manchester)

オペラハウスの三階席からの様子。

1912年開業、座席数1915席の大劇場。前述のパレスシアターと直線沿いに位置し、同じくATGが運営している。

上演作品の傾向

パレスシアターとどう棲み分けをしているのか不明だが、少し古いミュージカル作品(「マンマミーア」、「ロッキー・ホラー・ショー」)が多めだったり、よりミュージカル以外の音楽やドラァグクイーンのパフォーマンスといった上演も多いかもしれない。ただ、「SIX」や「スポンジボブミュージカル」も上演されるので一概には言えない。

チケット・特徴・思い出

チケットのあれこれや手荷物検査については前述のパレスシアターと同様。パレスシアターに比べて三階席の傾斜がかなりついていて、舞台上部のセットや映像がより見えにくい。アガサクリスティーの「ねずみとり」がこの劇場で上演された際には、キャパが多すぎて合っていないんじゃないかと少し感じた。

 

The Lowry

夜の劇場外観。

2000年開業、席数約1700席のThe Lyric theatreという大劇場、約400席のThe Quays theatreという小劇場に加え、アートギャラリーや練習室なども備えた複合施設。マンチェスターの中心部からは少し遠く、BBC等のメディア関連会社が集まっているソルフォードというオシャレな地域に位置している。向かい側にはショッピングモールがあるが、あまり栄えていない。

上演作品の傾向

前述の二つと異なり、ATGの傘下ではない。他の都市ではATGが扱っている演目でも、マンチェスターではこの劇場が独自で販売している場合もある。大劇場では、ミュージカルやバレエ、ダンス作品など多様な作品を上演している。National Theatre, Bristol Old Vic, Royal Shakespere Company 等の主にストレートプレイで話題性のある面白い作品を上演している劇団で、規模の大きいものはこの劇場を選ぶ場合が多い。マシュー・ボーンのバレエ作品もこの劇場で上演された。

チケット・特徴・思い出

チケットの値段は公演によって全く違う。大体20£位することが多いが、人気のない場合は割引チケットが出たり、良い席に交換してもらえる場合がある。

入場時には手荷物検査有。ボランティアと思われるが、スタッフがかなり多く、チケットは大体客席入口の各扉に配置されているスタッフに見せる形式。大劇場の方は客席の隙間がかなり狭いだけでなく、客席の間に通路がなく、一列が切れ目なく繋がっているので座席の場所によっては人が通るたびに立ち上がらなければならず、めんどくさい。また、傾斜があまり無いので、背の高い人が前方に座った場合は注意が必要だ。小劇場は一度しか行ったことがないか、ボックス席のつくりが可愛く、良い感じのサイズの劇場だった。

この劇場は、大学からバスで行きは40分帰りは1時間近くかかってしまうので少し不便な距離である。しかも終演が22時位になるとバスが頻繁には来ない。エピソードとしては、このバスを待つ時間で知り合ったマンチェスター大学の院を卒業した中国出身のお姉さんがその後この劇場の関連会社に就職し、NTのツアーの’The Ocean at the End of the Lane’のチケットを無料でもらうことができた。(その前に自分で買っていたので二回観た)。

ちなみに、劇場の名前になっているLowryはソルフォード生まれの画家 Laurence Stephen Lowry (1887 – 1976)から来ている。マンチェスターの美術館はどこも大体一作品以上は彼の風景画などを飾っている。

ロイヤルエクスチェンジ劇場(Royal Exchange Theatre)

劇場の様子。美しすぎる…。

1976年開業、席数約700席の特徴的な円形劇場。マンチェスターの駅やショッピングセンターの集まる中心地に位置する。元々王立の綿花取引所だった歴史のある建造物で、観光地としても訪れてもらいたい美しい劇場ランキング1位だ。

上演作品の傾向

シーズン制で、例えば2022の秋冬・2023の春夏では、全体で2022年9月~2023年7月までの間に計7演目が上演される。それぞれ1か月ほどの公演期間だ。

2022/2023の演目一覧

1. テネシー・ウィリアムズ作『ガラスの動物園

2. 『Let The Right One In』(映画にもなったヴァンパイア物)

3. 『Betty! A Sort of Musical』(イギリスの女性政治家Betty Boothroydの自伝的ミュージカル)

4. David Eldridge作『Beggining』(NTでも上演された男女の二人芝居)

5. テネシー・ウィリアムズ作『やけたトタン屋根の上の猫』

6. 『NO PAY? NO WAY!』

7. Kimber Lee作『UNTITLED F*CK M*SS S**GON PLAY』(ミス・サイゴンを批評的に扱った新作)

詳しいクレジットは該当のブログやサイトを参照していただきたい。何故二作品もテネシー・ウィリアムズをやるのかは謎だが、面白くて刺激的なラインナップだ。

現在はBryony ShanahanとRoy Alexander Weiseが共同で芸術監督を務めている。しかし、交代することがアナウンスされたので、また来シーズン以降からは新しい趣向の演目が上演されることになるかもしれない。

www.thestage.co.uk

チケット・特徴・思い出

 

ロイヤルエクスチェンジシアターHPより

通常の席は、青£40、緑£36、オレンジ£30、赤£22。黒の席がU-30でなんと£7(1000円ほど)である。紫の席は投げ銭方式で、£10~£50まで好きな額を払う形式になっている。嬉しいのは、そういう安く観劇できる席が三階席の端だけではなく、一階席にも配置されていることで、この恩恵にあずかって大体一階席の見やすい席で観劇できている。三階席は背の高いバーカウンターにあるような椅子に座らないといけないので、足腰が悪い人は注意が必要だ。

公演のパンフレットが毎回販売されていて、£4で買うことができる。かなりいらない広告も多いが、俳優の紹介、インタビュー等内容も充実している。劇場は公演時間じゃない時間はチケットを持っていなくてもするっと入ることができ、Wifiもしっかり通っているので、時間を潰すのにも最適だ。特に、階段から二階のスペースに上がると、劇場の中でリハーサル、準備をしているなあという雰囲気を感じながらソファでゆっくりくつろぐことができる。お気に入りの劇場の一つだ。

Home Theatre

劇場外観の様子。

2015年開業、500席の中劇場と、150席の小劇場、また三階は映画館になっている。前述のパレスシアターの近くで、大通りから裏の路地のような所に入って、再開発されている現場の、壁に落書きがしてあるような道を進んで行くと、急にこの美しい洗練された印象の劇場が姿を見せる。小さな劇場なのだが、雰囲気がよく、上演される演目も面白いものが多いので、マンチェスターで一番好きな劇場だ。

上演作品の傾向

実験的な作品が多く、ストレートプレイやダンスが中心。例えばフィジカルシアターのGeckoや、Boy Blue、SFの『桜の園』、『ベニスの商人1936』等々…。レベルが高く、満足できることが多い。

チケット・特徴・思い出

チケットは公演によるが、£10~20程。人が通る時は立つ必要があるが、座席の間隔には少し余裕があり、赤い座席がかなりフカフカしていて座りやすい。

入ってすぐ左手には全く目立たず、人もあまり入っていないがアートギャラリーもあり、ここの展示も結構インスタレーション的だったりして面白い。

制作のワークショップや演目選定のワークショップ、ボランティアなどの事業も盛んに行われているので、マンチェスターに滞在することがあり、そういったことに興味がある場合は定期的にサイトをチェックするといいかもしれない。

一つ問題があるとすれば、HPで、演目を押しても画像が出てこなかったり、上演後にはページごと消えていたりすることだ。もしかしたら私のパソコンの問題かもしれないが…。

homemcr.org

Contact Theatre

劇場外観の様子。

1972年開業。とにかく一番大学から近い劇場で、私の寮からは歩いて5分ほどで行ける(歩いて5分の距離に劇場があるなんて幸せだなあ)。見た目は一見全く劇場に見えないため、演劇に関心がない人は全員工場のような謎の建物だと思っているのではないだろうか。中には320席の劇場と80席の劇場の二つの小劇場がある。

上演作品の傾向

大学とも提携しており、若いアーティストへの支援を打ち出している劇場なので、若い小劇団の上演が多い。しかし、若いアーティストといえども、質は高いことが多い。また、ツアー公演で面白い実験的演劇を上演している団体が来る場合もある。上演される作品は、環境問題もしくは社会・政治問題のテーマを扱い、アーティストもLGBTQIA、障がい、人種の点でマイノリティー集団を含んでいることが多い。例えば、労働問題を扱ったダンス作品を上演したGary Clarke Company、障がいのある演者がバーレスクをする作品を上演したThe Not Your Circus Dog collective、LGBTQIAの演者がクラブで踊るというコンセプトの作品を上演したOutbox等だ。特にLGBTQIAの歴史月間である二月は、クイアコンタクトというイベントが開催され、Ballというダンスのイベントや、キャバレー、バーレスクなどが大量に上演される。

チケット・特徴・思い出

チケットは普通に買っても£10から£15程なのだが、メンバーシップに加入するとシーズン中の一部の演目を無料で観ることができたり、また一部の演目を50パーセントオフで見ることができる。£15で加入できるので、何作品か演目を見る予定のある人には、おすすめだ。(もしかしたら50周年記念で今年限定のサービスかもしれない。)

チケットを購入すると、必ずメールに30分前に劇場に到着してくださいと書いてあるのだが、結局入場は10分前や5分前になるのであまり守る必要はないかもしれない。上演がある日は劇場の外の壁が七色にライトアップされる。

また、この凝った形の劇場だが、冬は暖かく、夏は涼しくなるような環境に優しい設計になっているようだ。詳しくは以下の動画で説明されている。

 

 contactmcr.com

 

 

Hopemill Theatre

劇場外観の様子。

2015年開業。120席の小劇場で主にミュージカルが上演される。マンチェスターの中心部から少し北東のエディハドスタジアムなどがあるあたりに位置する。Joseph Houston と William Wheltonがロンドンの小劇場を夢見て創設したそうだ。

上演作品の傾向

主にミュージカルを上演している。自劇団の公演では2022/2023年は「シンデレラ」と「HEAD OVER HEELS」を上演していた。後者はブロードウェイミュージカルのイギリス初演公演であり、かなり独自の精力的な活動をしているミュージカル劇団といえるだろう。貸館としての事業も行っており、外部の劇団によるミュージカルやコメディナイトのようなイベントも開催されている。

チケット・特徴・思い出

チケットは他の劇場と比べると少し高く、£40~£30位した。ただ結局割引チケットが出たので、購入したチケットは£15程割引されて観ることができた。客席は、ブラックボックスに平台で組んだような雰囲気で、アマチュアの劇団の公演という風な、なつかしさがあった。

ミュージカルスクールを併設しており、小さな子供向けにもワークショップやサマースクールを行っている。評判がすごくいいようで、グーグルの口コミ評価も高いし、偶然あった人が好きな劇場として挙げるのもこの劇場だった。少し住んでいる場所から遠く、交通機関も便利ではないのであまり親しみがないが、近所に住んでいたら好きな劇場になっていたかもしれない。

hopemilltheatre.co.uk

かなり長くなってしまったが、一人でもこのブログを参考にして劇場に行ってみたいと思ってもらえたら嬉しい。

調査も予定していたよりもちゃんとできなかったので、誤った情報、変わった情報があれば逐一更新していきたいと思う。