バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

五月中旬の観劇記録『A Play for the living in a time of extinction』『スポンジボブミュージカル』『Greatest days』『TransMission: Sissy TV』『Landing on Feathers』

最近のイギリスは、気温も上がってきて、天気も良くお出かけ日和で本当に良い季節です。そんな五月中旬の観劇記録を残していきます。

 

5/19 Katie Mitchell 演出『A Play for the living in a time of extinction』

Shakespeare North

ケイティ・ミッチェル演出の自転車を使った舞台。

自転車は四台で、前説の後、電気が消され一度真っ暗になった後、自転車で発電した明かりを使っての上演が始まる。中心には電気の溜まっている量がネオンライトの数字で示されて、可視化されている。漕ぎ手の人がほとんど高齢者の人達で、一時間漕ぎっぱなしで大変そうなのが少し心配になった。

物語の方が印象に残ってないのだが、ドラマトゥルクの女性が、身内の悲劇の話を語りながらそれを環境の話と絡めて語るというもの。途中動物の画像なども使いつつよく聞いたことのあるような環境に関するレクチャーだったように思う。一人芝居だと思っていたのだが、最後黒い服を着た集団が現れ、合唱をしてエンディングを迎える。

物語に集中できなかったのは、開演ギリギリの時間に二人のグループの人に席を移ってほしいと言われたこととも関係していると思う。どこに移ればいいのか聞いても、いやあなたが好きなように…みたいな感じではっきりと答えてくれないのでとりあえず私の右側に二人で座れるように移ったのだが、後から戻ってきた左側にいる女性も右側の二人と話していて、いやそっちもグループだったんかいとなったからだ。ただこの三人全員が集団で座れるようにすると、元々中心寄りだったのに一番舞台端の席になってしまうのでそれも違くないかと思ったり、いやあそこでこう言えば良かったんじゃないかと思ってぐるぐる上演が始まってからも考えてしまった。ツイッターで盛り上がっていた時は、いや席ぐらい譲ってもいいやんと思っていたのだが、映画ではなく演劇の上演ということもあり現実は上手くいかないということを学んだ。

Shakespeare Northという劇場は、マンチェスターリヴァプールの間位に位置するプレスコットに、去年の夏にできた劇場で、グローブ座を模したような劇場のつくりになっており、スタッフも新しい良い劇場で観劇文化を作っていくぞというような活気にあふれていてとても雰囲気が良かった。

5/20 『スポンジボブミュージカル』

一言でいえば本当に面白い、楽しいミュージカルだった。ツアー公演のプロダクションということもあって、感想や情報を見て予習したブロードウェイ版とビジュアルや演出が結構異なっていると思ったので、上手く比較はできないと思うが観てきたものを記録したいと思う。(家族がスポンジボブが嫌いということもあり、アニメを全く見てこなかったので、情報に間違いがあったら済みません…。)

 

 youtu.be

 

ビジュアルから言うと、スポンジボブは眼鏡をかけているし、ヒトデのパトリックはニット帽で頭の突出部分を表現しているし、リスのサンディは耳を表現したようなお団子のある髪型でフード付きの衣装でブロードウェイ版と細かく異なっている。特にプランクトンはドラァグクイーンとして活躍するDivina de Campoが演じていることもあってか、よりプランクトンのアニメの見た目に近づけたような、2つの角が長く伸びた髪型で、顔も緑色に塗っており、服装も緑色の特殊スーツのような感じでより悪役らしい見た目なっていると思った。機械の妻のカレンも同じく眼鏡が画面付きで、声の波形が表示されるようなものになって、より機械っぽくもなっていた。このように結構衣装は異なり、その他のキャラクターやアンサンブルの様々な場面の衣装も新しい、異なるデザインだった。

舞台上は、上手に円形、下手に四角形の画面があり、そこに主にニュースキャスターの映像が流れる(ニュースキャスターは出てくるのかなと思っていたが、最後まで実物として現れることは無い)。上手には、効果音を出すようなアイテムも置いてあり、足音が特徴的なキャラクターの移動などに合わせてアンサンブルの人が適宜音を出していた。舞台奥には、2段になったセットがあり、そこでバンドが演奏をしている。

上演は、まず海賊パッチ―が前座として写真を撮ったり、上演中の注意を説明した後、警備員の恰好をしたキャストに連れ去られるところから始まる。第二幕も同じく海賊パッチーと仲間たちの音楽演奏で、また警備員に連れ去られてから始まる。ストーリーは同じで、彼らの住むビキニタウンが火山の噴火で危険にさらされるが、それをどうにか解決するというものだ。細かい演出はたぶん色々と異なるのだと思う。最初に、ベッドが縦になっていて、スポンジボブが磔のような状態で始まるのだが、こういう演出の元ネタは何の作品なのだろうか、宝塚だと『Exciter』のChage boxの場面のMr.YUであったり、聞くところによるとテニミュ3rdの立海でも同じネタが用いられているらしい。また、2幕では『コーラスライン』風の場面もあった。『アナ雪』のミュージカルなど色々な西洋の作品で使われているので、お約束なのかなと思う。あとは、Stay Homeなどがかなり強調されていて、パンデミックの初期の状況を感じさせるような演出もかなり印象的だった。

『気候変動と演劇』という授業を取っていたので余計感じるのだが、大規模な商業ミュージカルでありながら、かなり環境に関わる問題に切り込んだ作品だと感じた。特に、物語の中心をなす、災害のテーマもに加えて、舞台セットでゴミの山が使われたり、ゴミでできた衣装を身につけている人が違和感なく出てきたりしていた。楽しくて社会派である。特に子供が沢山観に来ていたので教育効果は抜群だと思う。

Twitterでも何度も言ったが、最前列のセンターでチケットが13ポンドだったのは本当に意味が分からない。いくら一席だけぽつんと空いてしまった、シャボン玉が全部降りかかって来るとは言え安すぎると思う。そのおかげでとてもいい経験をさせてもらった。

開演前の様子。

5/21 ミュージカル『Greatest days』

@Palace Theatre

マンチェスターで2017年に初演されたミュージカルで、同じくマンチェスター発のボーイズバンドTake Thatの曲を使ったジュークボックスミュージカル。脚本はティム・ファース。演出は同じくティム・ファースとステイシー・ヘインズ。

物語は、学生時代から始まる。ザ・バンドというグループの大ファンで仲の良かった5人組で、全員でライブに行き、楽しい時間を送っていたが、ある時その中心人物の一人が亡くなってしまい。その後全く全員連絡を取らないようになっている。25年後、ザ・バンドギリシャでのライブに当たった主人公は音信不通だった友人たちに連絡を取り、また再会するというもの。ネタばれ回避のためにほとんどあらすじが書かれていないサイトが多いものの、「4人が再会」という文言を予習していたので、若い頃に5人グループで行動していたと分かった瞬間に誰か死ぬだろうなということの予想がついてしまった。

話はそう特別面白いこともなく、音楽も不勉強で知らないのだが、友情や喪失というテーマには自然と心を動かされるところがあった。若い頃と25年後の中年の頃、そしてザ・バンドのメンバーはそれぞれ4人から5人ほどで、その3つが別々のレイヤーで、交わってもお互いのことが見えないというような関係で進んで行くのが新鮮だ。ジュークボックスミュージカルでも、そのままアイドルとして登場し、パフォーマンスをするというのあまり見たことが無い形式だと思った。

ちなみにこの劇場でジュークボックスミュージカルを観るのは、『ボディーガード』で、ある観客が歌い続けて、進行を妨害し、途中で上演が中止になるという事件が起きて以来初だったが、観客は普段通り歌っていた。どれだけのことをしたら公演中止になるのだろうと思ってしまった。

 

5/23 Nando Messias: TransMission: Sissy TV

@Contact Theatre

トランス女性のNando Messiasによるソロパフォーマンスで、レクチャーパフォーマンスの形式。客席が四方を囲むような舞台で、クローゼットの中であるという設定。舞台上には彼女の衣装や靴、バックというようなものが並べられている。会場に入ると彼女が全裸で待ち構えていて、挨拶をしたりコンテンツワーニングをしたりする。Nuidityだけどもう(脱いでるので)遅いよねというところがまず最初のひと笑いだった。

作中で何度も繰り返されるように、「アーカイブ」が作品のモチーフになっており、彼女の昔の作品の衣装や小道具を用いながら、そのパフォーマンスやそのパフォーマンスのきっかけになったトランスの人たちへの事件を振り返っていく。最初に以降のパフォーマンスで燃やす、入り込むなどの行為のキーワードが発表されて、そのキーワードに沿って進んでいく。髪を燃やしたり、トランクケースの中に入ったり、カバンを開けるとどんどん小さい鞄が出てくるというような隠し芸のようなシーンや、こけ続けて体を痛めつける、高いところから落ちるなどの身体的な痛みの感覚に訴えるようなパフォーマンスのシーンがあった。それぞれのシーンの後半では詩のようなものも朗詠される。最後には上方から隠して吊ってあった新しい衣装が登場し、これが新しいパフォーマンスですということを言って終わる。この最新衣装は、鶴や松が描かれていて、着物の生地を使っているような豪華なローブだった。

パフォーマンスは1時間ほどで、終演後は、上演で使っていた衣装や小道具に自由に触ったり、演者とお話しをすることができる時間が設けられた。授業で学んできたようなアーカイブだったり、レクチャーパフォーマンス的な上演で、トランス女性としての経験をこのように表現することができるのかと思った。

劇場内の注意書き。

5/24 ユトレヒトスプリングフェスティバル『Landing on Feathers』

@BAK

 springutrecht.nl

Jija Sohn, Aleksandra Lemm, Nica Rosesという三人のダンサーとドラマトゥルクの julia Reistによる観客参加型パフォーマンス。観客は荷物を置いて靴を脱いで、黄金のマットの上に座るように促される。この作品のテーマは介護やケアである。前半のパートでは、Nicaが20分以上舞台上を縦横無尽に回り続けながら個人的な、介護にまつわる話をし、その後、彼らは三人でコンタクトインプロビゼーション的な、相手を支えたり支えられたりしながら動くパフォーマンスをする。後半パートは実践で、隣に座っている人と腕を預けたり預け合ったりした後、下に引いてある黄金のマットに自分の手を伸ばして身体的感覚を拡張するイメージで持ち上げ、中心に持って行って、その上に寝転がる。寝転がっていると羽が上から手動で落とされて、それを落ちてこない様に空気を吹いて動かしたりする。それも終わると、チョコレートやハーブティーが配られ、他の参加者と歓談をするという流れだった。

 

介護の身体感覚というテーマは興味深く、相手の細かい動きを察知するということだったり、感覚の拡張だったり、協力だったりいろんなテーマがちりばめられていた。こういう実践の時に、どうしても周りの人が集中して取り組んでいる様子がかなり劇的で面白いのでそっちも気になってしまいがちである。自分の細かい身体の動きに集中するというのも普段はあまりしないことなので、自分の予想通りに動かないなという部分を感じるのが面白い。

歓談パートでは、一緒に腕のワークをした隣に座っていたバリ出身の方と、チケット購入でオランダ語が分からなくて助けてもらった会場でボランティアをしている大学院生の方と主に勉強していることを中心に色々話すことができた。普段はシャイでこういうことはめったに起こらないので、すごくいい機会だったし、疲れを押し切って参加してよかったなと思った。

この演劇祭のパンフレット。