バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

3月後半の観劇記録~『The merchant of Venice(1936)』『オペラ座の怪人』等、計6作品~

  観劇のブログが滞っていたので、とりあえず3月内の公演は振り返っていきたい。今が一番観劇スランプ状態で、イギリスに来たばかりの時に比べてあまり刺激の強い、筆を走らせたくなるような公演に出会えていない。4月内は課題もあって観劇を抑えているので、また期末試験明けに期待をしながら、簡単な感想をまとめていく。

 

①ミュージカル『Rock of Ages

 マンチェスターオペラハウスでの公演。80年代ロックミュージックを使ったジュークボックスミュージカルで、日本でも2011年に西川貴教主演で上演され、2012年には映画化もされた。ロックスターを夢見るドリューと女優を夢見るシェリーが老舗のロックバーで出会い、働いているバーの取り壊し騒動や、スターシンガーとの浮気など色々事件が起こり、一度は離れ離れになるが、また再会し、愛を確認するという話。ロックの音楽は生演奏でとても良かったのだが、話の筋はまあよくある話だし、マイノリティ表象(ゲイ等)がもうあまり見ることができない程ステレオタイプ的で、あまり面白くないと感じてしまった。

 ただこれは私が三階席の一列目で、全ての視界を目の前の棒に奪われていたということも影響していると思う。他の同じ列の観客は違う席に自由に移っていたのだが、勇気が出なかった。

棒過ぎる。二階席三階席は一列目を避けた方がむしろ見やすいというあるあるだ!

 

②『The merchant of Venice(1936)』

舞台上の様子、上手下手端どちらもに観客席が設けられている。

 HOMEシアターでの公演、ロイヤルシェイクスピアカンパニー含め、色々な劇団が制作に関わっており、今夏にはストラットフォード・アポン・エイヴォンでも上演するらしい。1936年のイギリスに時代と場所を移した『ベニスの商人』で、シャイロックが女性になっている。イギリスのファシストたちによるユダヤ人街の弾圧という実際にあった歴史上の出来事が取り込まれており、金貸しのシャイロックを追い詰める人達は、ファシストだし、さらに全員男性でホモソーシャルな雰囲気だしすごくシャイロックへの同情が高まった。

 舞台の上にも机と椅子が置かれ、一部観客席のようになっている。観客に見られる形でずっと劇の中にいないといけないのは緊張しそうだと感じたが、最後のシーンではこの観客がデモ参加者のような形で劇に介入してくる。一般の人の参加型にするのは、やっぱりいわゆる「普通の」人々がファシズムに熱狂して差別をし、暴力に駆り立てられていくということを考えると、意味のある仕掛けなのだろうと感じた。

 
③Rambert Dance 『Peaky Blinders: The Redemption of Thomas Shelby』

www.youtube.comThe Lowryでの公演。Benoit Swan Poufferが演出振付を手掛ける作品で、『ピーキー・ブラインダーズ』というドラマを基にしているらしい。第一次大戦後のバーミンガムのギャングの抗争の話らしく、戦争や工場労働の場面と合わせて、かなり治安の悪い、銃をドンパチして人が死ぬような場面も多い。ただ、スーツの着こなしがカッコいいし、間にメリーゴーランドを模したようなシーンや、クラブで女性ダンサーが踊るシーンなども挟まれるので、少し治安の悪い宝塚のレビューのような雰囲気でもあった。時代も同じくらいなので、『グレートギャッツビー』を想起するような感じだ。舞台の装置が不思議で、かなり底をあげて中心の四角いメインステージとその外周を取り囲むステージの間に溝があり、そこから急に現れたりはけたり出来るようになっていた。

 

Elysium Theatre Company 『The island』

開演前の舞台上の様子。

 同じくThe Lowryでのはしご観劇。アソル・フガードらが、アパルトヘイトが行われていた1970年代の南アフリカで書いた作品。題名通り島の刑務所で服役している同室の二人が、服役期間の短縮などで衝突がありながらも、「アンティゴネー」を上演するという話だ。実際にネルソン・マンデラも服役中に「アンティゴネー」を上演しており、クレオンを演じたらしい。

 前期の授業で取り上げて、プレゼンもしたので観に行った。脚本を読んでいた時にイメージした全くその通りの上演で、悪くもないのだが予想も裏切られなかったので、物足りないと感じてしまった。それ以外の上演方法は思いつかないが…。有名作品で、それ自体がもう古典になってきてもいるとは思うが、、初演のジョン・カニらが演じることもなく、アパルトヘイトも廃止された今どのようなテーマで上演するのかというのは問われるべきだと思う。

 

⑤『オペラ座の怪人

開演前の舞台上の様子。

 Her Majesty's Theatreでの観劇。ロンドン旅行の定番!演劇に興味のない友人を連れて行ったが、楽しんでくれたようなので良かった。体調不良などで日本で見る機会を失ったまま、映像以外では初めての観劇だったのでモーリー・イェストン版の『ファントム』との違いに新鮮に驚いた。やっぱり曲がカッコいいし、ステンドグラスやボートのシーンはスペクタクルで最高という感じだ。怪人が可哀想と思ってしまう時とやっぱりこいつはダメだストーカーだと思ってしまう時(ウェディングドレスを見せる時等)の波ががなりある。あとバレエ教師のマダム・ジリーは怪しすぎる。クリスティーヌは全然怪人のことを好きじゃなさそうなので、『ラブ・ネバー・ダイズ』に続くとは信じられないな…。

 

⑥『マイ・フェア・レディ

 ロンドンの下町の少女イライザが、その酷いなまりを言語学者のヒギンズ教授に矯正させられ、礼儀正しい淑女へと変貌するという有名なミュージカル作品。ジョージ・バーナード・ショーの『ピグマリオン』を基にしている。イライザが何度も着替えるのでその間の時間稼ぎかもしれないが、本筋とは別に父親の結婚式などが挟まれ、それが非常に冗長で、男の俳優が女装して笑いを取ろうとしている感じなのも面白くないなと思った。また、ヒギンズも普通に皮肉屋で嫌なやつだし、イライザは慣れていない場所でかわいそうだし、すごく見ていてイライラしてきてしまって全体的には(私の集中力も含めて)ダメだった。

 良かったのは、まず、エンディングがイライザとヒギンズが急に結ばれる結末ではなくなっていて、一人ヒギンズを残してイライザが自分の足で進んで行くように示唆されるシーンで終わったことだ。明らかにイライザがヒギンズのことを好きではないので、どうなるかと思ったが現代的な解釈が示されていて良かった。また、イライザを好きになる貴族フレディ役のTom Ligginsがこの役でウェストエンドデビューの新人らしいのだが、歌も上手いし、おバカな感じ、でもどこか優しい雰囲気も出ていてめちゃくちゃ好きだった。俳優には全く詳しくないので例えられないが、オリヴァー・クリスとか日本だったら渡辺大輔とかに似ている雰囲気かもしれない。