バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

ラストのウェストエンド観劇記~『Operation mincemeat』・『間違いの喜劇』・『CABARET』・『オクラホマ!』・『ガイズ&ドールズ』・『ムーラン・ルージュ』~

期末のエッセイ提出も終わり、イギリスから移動する前の最後のロンドン滞在として三日で計六作品観劇した。ウェストエンドでは、端席だと日本で観るよりも安く5000円以下で大体チケットが手に入るので、あまり普段はチケットを買うことが出来ない商業ミュージカル作品中心の観劇だ。

5月末に観劇したのだが、言い訳をしておくと、IELTSという恐ろしくストレスフルな英語の受験に苦しんで、書く時間が取れなかったので、あまり覚えていない部分が多いかもしれない。とはいえ、日記程度に記録を残していきたいと思う。

 

『Operation Mincemeat』

 ツイッター上でも、演劇学専攻の友達からも熱烈に推す声が聞こえてきていたので、これは観ねばということで観劇。元々人に勧められてみる作品は期待値が上がり過ぎる傾向にあるので、その魅力が全然分からなかったということになって落ち込む場合もあるが、この作品は余裕でその期待値を超えてきてめちゃくちゃ面白かった。

 演出はRobert Hastie、その他のクレジットは公式HP (https://www.operationmincemeat.com/creditswe)に詳しいが、これを見るとマンチェスターのThe Lowryも出資をしているみたいで、いつかツアー公演とかも来るのだろうかと思った。題材は第二次世界大戦下のイギリスの「ミンスミート作戦」という死体を使って偽情報をナチスに掴ませるという実際の作戦を基にしていて、同じ題材に基づく映画も作られている(それに関わるギャグも色々あった)。とはいえ、良いのかと思うくらいコミカルに作られていて、ミュージカルナンバーがかなり多い。ちょっと記憶の限界もあるのだが、二幕始まりのナンバーがナチスに関わるもので、観客が拍手をしたら、キャストが「え、そっちの味方だったの」というようなことをぼそっと言うのがとても面白くて何故だかめちゃくちゃ覚えている。これ以外にも本当に沢山ギャグがあった。

 キャストは驚きの五人だけで回していて、本当に出ずっぱりだ。お手伝いさんでお茶汲み係だったレスリーがスキルを認められて活躍していくのだが、途中でモンタギューが急に冷たくなるのが意味が分からなくて、はあ?という感じだった。何か台詞を聞き逃しているのかもしれないが…。マジでソ連と繋がってる弟とも接触するし、スパイじゃないのか!?(ネタバレを避けておく)

 

『間違いの喜劇』

開演前の舞台の様子。目付柱みたいな位置に柱があってちょっと邪魔。

 イギリスに来てここを訪れないまま帰るのはマズいということで、初めてのグローブ座。ギリギリまでToday Tixの当日券と悩んでいたので、購入が遅くなりスタンディング席は買えず、非常に視界が遮られる状態での観劇になった。双子の主人と従者が混乱を巻き起こす物語で、双子は兼ねるのではなくよく似た背格好の俳優が演じていた。コメディーで、客席いじり(魚を釣る人が糸を観客席に垂らす、髪型いじりなど)や客席からの装置の登場などで飽きさせない仕組みもあり面白かった。途中客席から「Just Kidding」という叫び声が大向こうのように響き、そういう文化もあるんだっけと思ったが、全く盛り上がっていなかった。何だったのだろうか…。

 グローブ座といえば、元々は男性が女性役も演じていたが、現在は逆にそもそも女性役が少ないために女性の俳優が男性を演じるという取り組みを進めていることで知られている。 

www.theguardian.com

↑ブラインドで決めるというのにも批判はあるが、今回の上演でも女性が男の役を演じていて、それがごく自然に溶け込んでいるのはとても良かった。

 

『CABARET』

 Kit Kat Clabと名前を変えられたおしゃれなバーのような劇場で、客席も多くなく、本当に当時のキャバレーに迷い込んだように錯覚する。特に開演時間を勘違いしていて何分か遅れてしまい、申し訳ないことに案内の担当者が一人に一人ずついて、裏道みたいなところを少し歩いたのでその雰囲気を更に感じた部分はあったかもしれない。

 今作品は、1966年に初演され、今回のリバイバル版ではRebecca Frecknallが演出している。2022年のオリヴィエ賞を最多受賞した注目作で、チケットも安い席はすぐに売り切れる現在大人気の作品である。演出はかなりキャンプで、ブレヒトの『三文オペラ』っぽい雰囲気だった。最初はかなりダンサーのキャバレーっぽいパフォーマンスやビジュアルの美しさに惹かれていたが、二幕ではせっかく結婚した家主とユダヤ人の果物屋店主がユダヤ人排斥運動の高まりで別れる所や、主人公のクリフと歌姫のサリーが別れる所など今後の雲行きの怪しさと分かれの悲しさが高まり予想よりかなり感動した。特に果物屋のガラスが割れる演出が花吹雪を上手く使っていてとても美しかった。

 また、歌声が絶品で、特に、クラブのMC役のMason Alexander Parkが鼻にかかったわざとしわがれたような声や高音での歌唱が上手過ぎて魅了された。「I Don't Care Much」が特にめちゃくちゃよかった。5月29日から演じるということだったので、彼自身の初日から三日ほどでの観劇だったらしい(Olney Theatre center の上演で同役を演じてHelen Hayes Awardという賞を受賞している)

 

 www.youtube.com

www.youtube.comこの以前のプロダクションの動画があったのでシェア。上演を観たという経験があるからより沁みるのかもしれないけれど、聴いてみてほしい。今回のプロダクションでの眼鏡をかけたビジュアルもめちゃくちゃ好きすぎる、どうしてこうも中性的というか、ノンバイナリーな表現をしている人に私は惹かれるんだろうね…。

 

 

オクラホマ!』

開演前の舞台上の様子。遠い…。

 宝塚で同じ作品が上演されたとは信じられない程の、恐怖を感じるDaniel Fishの新演出版。元々男女の三角関係の話なのだが、後にカップルになるカウボーイのライバルである農民ジャッド・フライが明らかに村から爪弾きものにされていじめられている。明るい地明かりに、銃が大量にかけられた壁もとても不穏で、全員がすごくけだるそうに座っている。照明が真っ暗になって、その農民の顔をめちゃくちゃアップで映像に移すという場面もあり、よく分からないがいじめられてるということだけは明らかだった。こういう映像を映す場面は良く取り入れられるが、この作品では三階席にもよく見えるように、舞台上のスクリーンじゃなく三階席用に天井の壁にも映像が投影されて親切だと感じた。

 最後は、農民は意地悪されて彼女を落札できないし、振られるし、結婚式で何故か銃をプレゼントして、何も攻撃していないのに殺されてしまう。その死体を放置し、さらに返り血で血まみれの状態で有名な「オクラホマ」の音楽を陽気に歌い始めるのは本当にホラーというしかない状態だった。客席で近くの人が、これの題名は、『オクラホマ!』じゃなくて『母親が観たのとは違うオクラホマ!』にしないとねという話をしていて面白かったのだが、演出でこんなにも印象を変えることが出来るのかという驚きがあった。まあ女性を金で競り落とすオークションは今の時代に批判せず上演することはそもそも不可能だと思うが…。原作もちゃんと確認してから見ればまた発見がありそうだが、もう怖くて原作もちょっと当分は読めないかもしれない。

 

『ガイズ&ドールズ』

終演後の会場の様子。観客が踊っている。

 宝塚でも上演されている作品で、2022年には帝国劇場でも上演がされた。版権が厳しいこともあって映像でも観たことが無かったのだが、主題歌集で楽曲だけ何回も聞いていたため、同じ曲を聞けたときにはかなりテンションが上がった。

 NTの『真夏の世の夢』も上演されたBridge Theatreでの公演で、Nicholas Hytner演出。イマーシブになっており、観客のいるフロアがせり上がりしたり戻ったりして場面が進んで行く。警官の姿をしたスタッフが誘導をしているのだが、どのフロアが次使われるかというのはかなり複雑で、しかしトラブルなく上手く公演が進んでいてすごいなと思った。上演前もそのスタンディングの会場では帽子を売っていたり、記念写真を撮っていたり、上演後にはキャストと踊り出して、ミニダンス大会が開かれたりするので、スタンディングにしなかったことを少し後悔した。

 上演はコミカルで楽しく、特にDaniel Mays演じるネイサンとMarisha Wallace演じるアデレイドのバカップルっぷりがとても良かった。

 

ムーラン・ルージュ

開演前の舞台の様子

 日本でもこの夏に上演されるバズ・ラーマン監督の映画を基にしたミュージカル作品。チケット代が高いということや著名人に頼んだ訳詞で日本では話題になっている。

 会場に入った時の全面赤色を基調とした装置や美術の美しさ、豪華さはとてつもなく、何着も着替える衣装も可愛いので、まず第一にこれはお金がかかるだろうなと実感した。特に主役の高級娼婦サティ―ン役のMelissa Jamesが最初に登場するところは本当にゴージャスで、ビジュアルも歌も非常に魅力的だった。

 この作品は、ダンスのナンバーが多く、彼らの踊りや歌、視覚的な美しさで酔わせるタイプのミュージカルなのだとは思う。ただ、この時代に男女の三角関係で、最後に高級娼婦のサティ―ンが好きな男の腕の中で病気で死ぬという話はちょっと古臭すぎて、典型的なファム・ファタルっぽさもあって、面白くない。さらに、元々の映画から、既存の有名なポップス曲を使うジュークボックスミュージカルなのだが、作品の時代と合っておらずあまり良くないと思う。観客が一緒に歌えるほど盛り上がるわけでもなく、どんどん楽曲は懐メロ化していくので、作品に合ったオリジナル曲の方がむしろ盛り上がるし、より長く上演されたのではないかと思ってしまった。

 とはいえこれらの感想は、すべて一番安い端の席で見ている私の経験に大きく依存している部分がある。特にこの公演は、最終のバスに間に合うかどうかドキドキして全くカタルシスどころではなかった。最後の方の場面は現実と舞台上のストーリーが交錯しているおかげで、想像の二分の一の時間であっさり終わったというのが逆に印象的だが、実際一番盛り上がるカーテンコールは、早く終わってと思ってしまっていた(最悪)。時間がギリギリな場合は、緊張してしまうまじめな性格なので、もう一泊するのが吉かもしれない。でもロンドンでもどこでも泊ると高くつく。できたら日本版とも比較してみたいが、チケット代がやっぱり高すぎるので難しいかもしれない。

 

 これで最後かと思うと残念だが、また近郊に戻ってこれるように(IELTSを?)頑張ろうと思う。色々不安もあるが、人生を悔いなく楽しく生きたい…。