バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

ふじのくにせかい演劇祭雑感 ストレンジシード静岡編

ふじのくに世界演劇祭は知っていたが、初めて現地に足を運んだ。5/2-5/3 と滞在し、ストレンジシード静岡という主に野外で短い演劇やダンス作品を上演するという企画でいくつかの劇団の上演を観たので簡単に記録と感想を残しておきたいと思う。SPAC の「ギルガメシュ叙事詩」とオマール・ポラスの「私のコロンビーヌ」も観劇したが文字数が多くなりすぎそうなので、別記事としていつか執筆したい。

・ままごと「マイ・クローゼット・シアター」
スイッチ総研など野外での実験劇にも取り組んできたままごとの企画。衣装の持ち主のドラマを、観客が着て、その人になりきり、自分の足でそれぞれ静岡の町にある指定されたスポットまで赴き、体験するというものだった。私が選んだ人は本が好きな人であったが、指定された場所の前に古書店があるのは仕組んだものなのだろうか。役の人はどのような本が好きなのだろうかと想像しながら、普段はあまり見ない本棚を見るのは面白かった。(この古書店の演劇コーナーには唐十郎とか寺山の本ばかり置いてあった)
ただ、私はあまり意識しないまま選んでしまっていたのだが、物語が恋愛であることにはあまりノれなかった。女性と男性の異性愛規範に囚われていたわけでもないし、嫌悪感をもたらすような内容でもなかったので、それは個人的な問題として、帰りに見せてもらった友達のものも恋愛の話だった。こういう体験型の演劇は沢山ある選択肢の内一つしか選べないし、ネタバレも良くなさそうだし、友達のを見るのでさえ謎の罪悪感があったので、全体がそういう甘酸っぱい系だとは言えないが…。感想とか批評をするのも難しい形式の演劇かもしれないと思った。

・劇団かいぞく船「この道であい」
途中からしか見れなかった。地元のミュージカル劇団のパフォーマンスで、なんだかままごとっぽい、特に「あゆみ」に雰囲気が似ている印象を受けたが、パンフレットによると実際に柴幸男作品を上演しているらしかった。中高生の学生たちが皆上手に歌ったり踊ったりしていたが、唯一の高齢の女性の方の立ち姿が非常に美しいと思った(今回見た演目で高齢の方を見たのはこの公演だけであった)。衣装がこれぞセーラー服というようなセーラー服だったので脱線して考えると、実際に制服を着ているような中高生はこのような中高生役を演じたいのだろうか。大人の役とかどこか現実と異なる役がやりたいのではないかとか、私たちが見たい学生像を現実の若者に押し付けていないかとか、年下が出てくる作品だと考えてしまう。

・範宙遊泳「かぐや姫のつづき」
タイトル通り、かぐや姫のつづきを紡ぐ物語であり、子供にもオススメの作品とのことだった。かぐや姫の別の世界線という設定は、異世界物の氾濫の中よくありそうな話ではあるのだが、静岡ネタを上手く取り込み、俳優の方々の安定感もあって非常に面白かった。他の世界線かぐや姫や竹取の翁が出てくる部分の演技は、憑依の演技であると思うが、この一人二役の演じ分けというのが面白く、子供にも分かりやすそうだなと感じる。
一緒に行った友達も言っていたが、子供向けで大丈夫なのか?という夫婦仲に関する問題が扱われる。(平和で楽観的ではあるものの)解決の方向に向かうので良いのかもしれないが…まあ子供は大人が思っているよりも大人だったりするので、そんなに過保護に思わなくてもいいのかもしれない。気になりつつ見れていなかった劇団の一つだったので、短編でも生で観れてよかった。また YouTube で公開されている公演映像も観たいと思う。

~「私のコロンビーヌ」観劇・浜松餃子を食べる~

・「ホナダンス部とウララーズの!お外でディスコ!」
これも途中入退場で一曲目の途中と二曲目に参加した。楽しそうな音楽につられて会場に行ったが、大人がみんなで踊っていて、遊具で遊んでいる子供たちも踊っていなくても興味深そうに見ていていい雰囲気だなあと思った。自分で踊ってみるのも楽しかった。

・壱劇屋×サファリ・P×SPAC ストレンジチーム「Team Walk」
何年か関西にいて、関西の劇団でオススメも受けているのに生で観ていないこの二団体(コロナのせいにしておこう)。歩くという行為をダンスやパントマイム音楽の力で劇的なものにしていくというような作品だが、観客を巻き込む力、周囲の人に関心を持たせる力があった。また、ノせられた観客が音楽に合わせてみんなで飛び跳ねたり、不思議な歩き方をしている集団はそれ自体が異質だろうから、通りかかった人としてこの謎の集団を見るのも面白いだろうなと思った。

少年王者舘「トオトオデン」
途中から見たので、話の流れは良くつかめなかったのだが、半ズボンの少年に度肝を抜かれてしまった。そして、その後ブルガリアレバノンスマトラ‥‥など国の名前を音楽に載せてラップ調に言っていてさらに度肝を抜かれた…極めつけに最後「おーい」と叫んでいた、王手、チェックメイトだ。松本雄吉の「維新派」の作品に似すぎているがこれでいいのだろうか。維新派っぽくなかったら純粋に楽しめていたかもしれないが、さすがに似すぎというか‥.。
不勉強で「少年王者舘」という劇団は知らなかったのだが、実際、松本雄吉と交流があったようだ。何も知らないのでのれん分けのようなものなのかもしれないし、事情は何も分からない。ただ、私は地方育ちで、演劇に出会う・成長するのが間に合わず、生で観れなかった、がゆえに「維新派」への思いを少々こじらせている。映像で観た「維新派」の舞台に非常に似たシーンが繰り返されるものの、規模が小さく、オリジナル的なハンドベルや風船を使ったシーンは初日だからかあまり調和もとれておらず、あまりよくないのではないかと思った。あの会場の中で維新派を知ってる人はどれだけいるのだろうか…、生で維新派を観ていたという人や関わっていた人や、いろんな人に意見を聞いてみたいと思った。

他にも安住の地、コトリ会議、田村興一郎など気になる団体は多いが、時間の都合で見れず悔しい。上二つは関西の劇団なのでまた観ようと思う。贅沢な時間だった。