バナナの木

演劇学を学ぶ大学四回生です。自分の勉強のために観劇の感想を書こうかと思っているブログ

バイエルン歌劇場 ベルリオーズ「トロイアの人々」感想

 202276日、シビウからミュンヘンに降り立った私は早速バイエルン歌劇場でオペラを鑑賞した。演目は「トロイアの人々」で、Christophe Honoré演出、ウェルギリウスの「アエネーイス」を基にした作品だそうだ。チケットはU-30の割引で二列目なのに10ユーロだった。臨場感のある観劇体験だったが、逆に字幕は見にくく、予習も足りていないのでその点はご容赦願いたい。

 

 第一部は、ギリシャ悲劇のエウリピデス作「トロイアの女」と似たような状況で、カッサンドラを主役として進んでいく。カッサンドラの予言が信じてもらえないところから、トロイの木馬でのギリシャ軍入場、トロイアの女性たちの絶望という流れになってた。こちらは後述する第二幕に比べてベーシックな演出で、衣装もトロイアの王などが原色の鮮やかな色の衣装を着ている以外はモノクロな雰囲気だった。ただ、後半になると映像が使われるようになり、幕に土に埋められた男の映像が映ったり、下手にブラウン管のTVのようなものが砂嵐の状態で七台置かれていて、映像が映るようになり、その奥から人々が逃げてきたりしていた。また後半では舞台の中心に花が大量に置かれていて、それをなぎ倒すことによってギリシャ人の野蛮さが表現されていた。

 

 肝心のトロイの木馬なのだが、赤いネオンで「DAS PEFLD」(ドイツ語で馬)と書かれたものが降りて来るという演出になっていた。この文字を大きく表示する演出、日本では杉原邦生がよく使っている手法ではないかと思う。彼も「グリークス」や「オレステスとピュラデス」といった古代ギリシャ劇に関する劇を上演しているし、天井高めでバックステージの装置などが剝き出しで見えていたことや、色使いなどからも、彼の演出が強く想起された。

 

 第二部は、カルタゴの女王ディドを主役に、そこに漂流して来るトロイアの人々との交流、特にディドとエネの恋愛と別離を描いている。この第二部では、カルタゴが女王とその家族以外は男性で占められる国のようになっていて、幕開きから男性たちが裸で歩き回っている。さすがのドイツで、下も履いていない状態であるのには少し驚いてしまった。第一部よりも更に映像が使用されるようになっており、大きな二つのスクリーンが度々舞台上に登場する。これは、演出家が映画監督でもあるということとも関わっているのかもしれない。

 元来バレエが挿入されている場面があるのだが、今回の上演では映像で男性たちの乱交や流血が映し出されるという演出になっていた。この乱交の映像がかなり激しいもので、後ろの席の客が一列いなくなってしまうくらい途中退席が続出していた。気になったのは、そのカップルが男性同性愛者で占められ、第二部において女性のキャスティングが中心人物であるディドとその家族以外ほとんどいないということだ。第一部の最後にトロイアの女性達として出番があったからいいだろうということなのかもしれないが、結局話の筋に関わる所は異性愛のまま残さざる負えなくなっているし、そこは男性に限らなくてもいいのではないかとは感じた。

 

 また後半では、映像の使用もそうだが、途中カメラを持った人が生中継映像を取るような場面も出てきて、ケイティ・ミッチェルの演出を連想した(彼女の作品は今新国立で上演中だけれども…)。

 

 全体として、舞台に近い席ということもあって指揮者が目に入るのだが、今回の指揮者ダニエレ・ルスティオーニはかなり自身も激しく動くタイプの指揮者で、盛り上がる時には時々「うぐぅ」「んんん」などとうなり声のようなものも発する。悪いわけではないのだが、他の観客と同様に少し気になってみてしまった。また、オーケストラピットの中も少し見えるのだが、チェロを弾いている二人が年齢の離れた二人の男性で、楽譜をめくる時など仲がよさそうな雰囲気が出ていて良かった。

上演は五時間近くあり、外に出るともう真っ暗。

ドミトリーに帰ると自分の部屋は消灯していて、若者というより子供に近い男の子たちが修学旅行の夜のように廊下ではしゃぎまわっていた。ドイツ一日目…。